欠陥品の銃で大けがしたら
内臓を撃ち抜かれたプライスは、3年間で12回の手術を受けた。医療用メッシュで臓器を支えているところは今もうずく。なのに、トーラスが欠陥品とされる銃を各家庭から引き揚げる措置を取ったのはつい最近だ。
訴訟と「銃反対」は別物
トーラスは昨年7月、集団訴訟で和解し、100万丁近い銃をリコールすることに同意した。訴訟を起こしたのはアイオワ州の警官クリス・カーター。トーラスの拳銃のいくつかのモデルは設計に欠陥があり、落としたときに発砲することがあると申し立てていた。
そこでは9つのモデルが取り上げられており、プライスの事故を起こしたPT140も含まれている。被害者側の弁護士によれば、05年以降で少なくとも13人が似たような状況で負傷し、11歳の少年が死亡している。
和解は間もなく裁判所に承認される予定だ。そうなれば所有者は拳銃をトーラスに返し、代金の払い戻しを受けるか、引き金の安全が確認された銃と交換することができる。ただしトーラスは今も、銃が不良品だったとは認めていない。
和解が成立したもう1つの集団訴訟では、レミントン・アームズ社が700万丁以上を修理することを発表している。
カーターの訴訟では、原告側弁護士が約500時間のテストを専門家に依頼。高速度カメラを使って、トーラスの銃を落としたときの結果を捉えた。その映像で「衝撃を受けると、誰かが引いたように引き金が後ろへ動く」ことが分かったと、カーターの弁護士は言う。
難しいのは、欠陥品の銃に対する訴訟と「銃反対」は別物だと、銃保有者に納得させることだ。「訴訟は個人の武器所持・携帯の権利とは何の関係もない」と、プライスやカーターの代理人を務める弁護士のトッド・ウィールズは言う。「これは欠陥製品の訴訟だ。人を傷つけたり殺したりしたら、料理用ミキサーでも訴訟を起こす」
【参考記事】ノルウェー警察が10年間一人も射殺していない理由
プライスは事故の後、手術で胃に開いた穴や、筋肉がないため膨らんだ腹部を示したチラシを銃の展示会で配っている。ネットには、事故当時のことやけがから回復する様子を伝える動画を投稿。思いがけず活動家になった、といえるだろう。「あの事故は起こるべきじゃなかったと思っている。ほかの人にあんな経験をしてほしくない」
プライスは約20丁の銃を所有し、トーラス製ではないが銃の携行も続けている。トーラスへの怒りで、銃を持つ権利を支持する考えが揺らぐことはなかった。銃を持ち歩くと「力を手にし、被害者にならなくて済む」と感じられるという。
口にはしないが、銃が地面に落ちただけで被害者になるのはおかしいとも思っているはずだ。
[2016年2月 9日号掲載]