最新記事

核・ミサイル問題

北朝鮮制裁、中国は本気で金正恩を追い詰めるのか

国連制裁が実施され、北の中国向け資源輸出が制限されれば、開城工業団地の操業停止以上の致命的なダメージを与えることになる

2016年2月29日(月)17時06分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

韓国とも歩調を合わせて 6カ国協議議長を務める中国の武大偉・朝鮮半島問題特別代表(左)は28日、韓国外務省の黄浚局・朝鮮半島平和交渉本部長とソウルで会談し、国連安保理で近日に採択される見通しの対北朝鮮制裁決議について話し合った Ahn Young-joon/Pool-REUTERS

 中国が北朝鮮制裁をめぐって、米国と合意に至った。これを受けて、アメリカは大幅に制裁を強化する新しい決議案を理事国に配布。採択に向けて動きが活発化している。

(参考記事:史上最強の制裁決議案...「海上封鎖」に追い込まれる北朝鮮

 このなかで、注目されるのが北朝鮮の中国向け資源輸出に対する制限。これは、北朝鮮にとって致命的なダメージになる可能性を含んでいる。

 たとえば、韓国は先日、北朝鮮の外貨流入を遮断することを目的に開城工業団地の操業を停止した。同工団を通じて北朝鮮に流れるのは毎年約1億ドル(112億円)の現金だが、一方、北朝鮮の中国向けの地下資源の輸出額は2013年で約2080億円。2014年は15億2000万ドル(約1700億円)と減少したが、いずれも開城工団から得られる収入を大幅に上回る規模だ。

 ここにきて、中国が制裁に前向きな姿勢を見せている背景には、年々深まる中朝関係の悪化がある。

 国際社会ではなにかと北朝鮮をかばってきた中国だが、実は中国内の対北感情はすこぶる悪い。とくに2013年に、金正恩第一書記が、親中派だった張成沢(チャン・ソンテク)氏を処刑して以降、中朝関係の溝は深まる一方だった。

 それでも、中朝双方は関係修復に向けて水面下で動き、その結果、北朝鮮は昨年10月の労働党創建記念行事に中国共産党序列5位の劉雲山氏を招請することに成功。中朝関係は一気に雪解けするのかと思われたが、年始早々の核実験と2月の長距離弾道ミサイルの発射によって、またもや悪化へと突き進んでいる。

 さらなる悪化を招いた最大の要因は、北朝鮮、とりわけ金正恩第一書記の中国に対する反発と見られる。

 先月7日の第4次核実験直後に、北朝鮮は論説を通じて「これまで、米国の核脅威・恐喝を受けるわが国をどの国も救おうとしなかったし、同情もしなかった」と主張したが、「どの国も」というのは中国を指していると思われる。

 現時点では、中国が北朝鮮の制裁にどこまで踏み込むかは不明だが、これに対して北朝鮮側からは何らかの反発があるかもしれない。その反発の如何によっては中朝関係がさらなる悪化、ひいては金正恩体制が不安定化する可能性もある。

(参考記事:金正恩氏が「暴走」をやめられない本当の理由

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ――中朝国境滞在記』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)がある。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ギャップ、売上高見通し引き上げ ホリデー商戦好発

ビジネス

気候変動ファンド、1―9月は240億ドルの純流出=

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を

ワールド

米商務長官指名のラトニック氏、中国との関係がやり玉
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中