アメリカは孤立無援のメルケルを救え
どんなに有能な指導者も、孤立すればお手上げだ。
メルケルは今も自らが率いるキリスト教民主同盟(CDU)と国内政治の主導権を握っている。自分を蹴落としそうな人間を慎重に排除してきたこともあって、今すぐ彼女に取って代われる指導者はいないと、大半のドイツ人は見ている。それでも、支持率は昨年4月の75%から年初には46%まで落ち込んだ。
保守的なCDUの内部では以前からメルケルの穏健路線に批判的な声が多かった。そうした状況でも党指導部は集票力のあるメルケルをもり立ててきたが、世論の後押しがなくなれば、党内での立場も危うくなる。Brexit(ブレグジット、イギリスのEU離脱)をめぐる議論の行方しだいでは、あるいは新たなユーロ危機が勃発するか、春になって再び難民が大量に流入すれば、メルケルはたちまち足をすくわれかねない。
ドイツでは来月、3州で選挙が実施される。有権者の判断しだいではメルケルが支持基盤を固めて混乱の収束に道を開くことができるだろう。
ドイツ人の人道精神にも限度がある
それを助けるのがアメリカの役目だ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナに侵攻し、NATO(北大西洋条約機構)の東端の国々に攻撃的な姿勢を見せたときには、やむなく、だが決然としてNATOの旗振り役を務めた米政府だが、難民危機にはこれまで口出しを控えてきた。
今春に予定されているオバマのドイツ訪問は、アメリカがEUの団結を助ける伝統的な役割を取り戻すチャンスになる。オバマは「リーダーシップをとるパートナー」としてメルケルに協力し、難民危機への対応策を打ち出すべきだ。寛大な資金援助は既に行っているが、それだけでは足りない。
米政府はドイツ政府とともにヨーロッパの端で大勢の難民を受け入れてきたトルコとギリシャを助け、エーゲ海を通じて押し寄せる難民の数を減らし、シリアの近隣諸国のキャンプにいるさらに多くの難民たちを支援することで、秩序立った帰還や第三国定住を始めるべきだ。
この混乱をある程度収拾できる力を見せなければ、ドイツ人は人道的精神を維持することができない。そうなれば、大変なことになるだろう。
ブッシュは統一ドイツを支持していた。だが、共にリーダーシップを担うには、ドイツはまだ弱い存在だった。メルケルは、注意深いながらも指導力を発揮する準備を遂に整えた。だが米政府は、真のパートナーとしてメルケルと共に世界をリードする代わりに、頼り切ってしまった。
オバマ政権の難民危機や欧州情勢一般に対する姿勢は、危機がほどほどの程度に留まっているうちは適当かもしれない。しかしヨーロッパは今、危機の奔流のなかにある。その中心にいるのは依然としてメルケルだが、彼女とEUの運命は、アメリカの指導力と積極的関与に関わっている。
Damon M. Wilson is executive vice president for programs and strategy of the Atlantic Council.