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北朝鮮のミサイル発射と中国の海洋戦略を結ぶ点と線

金王朝の暴発に厳しく対処しない裏に「小悪」を利用する「巨悪」の冷徹な計算がある

2016年2月18日(木)16時30分
楊海英(本誌コラムニスト)

収穫 北朝鮮のミサイル発射でいちばん喜んだのは、日本の対応を観察できた中国だろう

 北朝鮮が今月7日に「人工衛星」と称する長距離弾道ミサイルを発射したことで、大いに喜んでいる国がある。中国だ。日米両国、ひいては韓国も含めた国々の練兵状況が手に取るように見られた。ただで「敵」の軍事演習を見学できたことで、ほくそ笑んでいるに違いない。

 日本は迎撃ミサイルSM3を搭載したイージス艦を日本海に1隻、東シナ海に2隻配備した。さらに地対空誘導弾PAC3を首都圏や沖縄の7カ所に展開して、2段階で対処。これが日本側の事前の軍事シフトだ。

【参考記事】「対話と交渉」のみで北朝鮮のミサイル発射は止められるのか

 国民への情報発信として、日本政府は沖縄県と県内市町村に全国瞬時警報システム・Jアラートで、全国の自治体にも緊急情報ネットワーク・エムネットで北朝鮮の発射動向を速報した。各自治体は東京からの情報と指示を正常に受信して対応にいそしむなど、軍事から国民保護に至るまで一体となった演習が粛々と実施された。

突き付けられた「短刀」

 ミサイル発射をいち早くキャッチしたのは米軍の早期警戒衛星だった。防衛省は米軍からの情報に頼ったというが、自衛隊独自の情報収集のレベルは明らかにされていない。非常時には、在日米軍が日本政府や自衛隊と一体となって短時間で作戦態勢に入れるシステムが構築されている──そうした実態を見て、中国は新たな海洋進出の対応策を練るだろう。

 日本はかつて帝政ロシアの南下を背景に、自らの脇腹に短刀のように突き付けられた朝鮮半島からの脅威を感じ取ったが、戦後はひたすら忘れようとした。近代史をめぐって感情的にぶつかり合うときがあっても、日本は半島南部の韓国と「価値観を共有する」と見なしてきた。

 半島北部の金王朝とも水面下で交流があった。日本の政財界に発言力を維持していた進歩的知識人らは社会主義体制を善なる存在と称賛。中華人民共和国をソ連に次ぐ「人類の理想郷」だと賛美した。日本はかつてのような脅威を体感することもなく、ひたすら太平の眠りを貪ってきた。

 だが今や、中国が新たな脅威となっている。北京から太平洋に向かって世界を俯瞰すると、朝鮮半島は中国の「戦略的な左腕」となる。「中国は平和を愛する国」「世界各国と平和共存の原則で互恵関係を構築」といった美辞麗句を並べながら、尖閣諸島を含む東シナ海域でガス田開発を強行してきた。南シナ海の9割を自国の内海と主張し、人工島を建設して軍事拠点化にも着手した。

【参考記事】尖閣問題は日中激突時代のプレリュード?

 近代中国の海軍は伝統的に北部の渤海湾から山東省の威海にかけて配備され、南シナ海への進出は遅れている。東南沿海部へ全面展開するにしても、九州・沖縄から台湾、フィリピンなどを結ぶいわゆる第一列島線を突破するには、大連といった北部基地との連携が不可欠だ。

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