プーチンはなせ破滅的外交に走るのか
だが不況でも、大多数のロシア人は現状に満足しているようだ。ウラジーミル・プーチン大統領の人気は依然として高い。プーチンを批判してきた者たちの多くも、現在は大統領を支持している。プーチンが彼らに、ロシアが復活するというイメージを与えたからだ。
独立系世論調査会社レバダセンターの社会学者デニス・ボルコフによれば、最近典型的に聞かれるのは、以下のような意見だという。「我々が牙を剥きだして見せたら、奴らは我々に敬意を払うようになった。好かれはしなくても、恐れられる存在であるべきだ」
驚くべきことに、景気の悪化にもかかわらず多くのロシア人は自分たちの生活が以前より良くなっていると感じている。2015年は、あらゆる経済指標が悪化していたにもかかわらず、レガタム研究所の繁栄指数でロシアは世界の68位から58位に上昇した(繁栄指数は、物質的豊かさだけでなく主観的な幸福度も組み合わせた指標)。
支配者は常に正しい
「多くの国では、客観的なデータと主観的なデータは一致する。景気が良ければ人々はそれを良いと受け止めるし、悪ければ悪いと受け止める。しかし時に、現実と主観の間にギャップが生じる場合がある。背景には、たいてい興味深いストーリーがある」と、レガタム研究所のピーター・パメラーンツェフとネイサン・ゲームスターは述べている。
筆者の考えでは、現在の状況があるのは、計画が悪かったせいでもなく、目標達成に失敗したからでもない。ロシアの計画や目標は、元から変化するものなのだ。ロシア政府が本当に気にかけているのは内政問題だ。だがプーチンはずっと以前から、内政問題を解決するための国内的な手段を失っている。だから国境の先に目を向けたのだ。
外交政策の目標は、その対象国や地域の中に留まらない。ウクライナやシリアにおけるロシアの行動が失敗に見える理由はそのためだ。ロシアはウクライナやシリアで単純な成功を意図したのではなく、政権の安定と維持が目的だ。
前向きではなく後ろ向きの目標だ。何かを起こすためではなく、何かが起こるのを防ぐために行動を起こしている。
昨年9月にシリア空爆を始めてから2カ月の間に、ロシア政府は目標を数回変更している。目標は、政治の風向きに応じて動き続けているのだ。トルコは、ある場面では必要とし、他の場面では利用した。
この状況では、ロシアの経済情勢は取りざたされることすらない。ロシア人たちの収入や、(物質的な)幸福は、犠牲にされてもかまわない。