最新記事

為替

ドル/円は安値圏で「神経戦」、介入含めた政策対応で思惑交錯

2016年2月12日(金)20時00分

 ただ、短期筋の間でも「前のめりでドル売り/円買いのポジションを組んでいる人は必ずしも多くない」(米系金融機関)との指摘もある。昨夏の人民元引き下げ後の混乱や、市場の失望を招いた12月欧州中央銀行(ECB)理事会後のユーロ急騰、年初からの荒れ相場と、相場の急変動が続いたことで、投機筋の多くは体力を消耗しているという。

<3月までに110円割れの予想>

 ドル/円は、約2週間で10円の円高が進んだ。為替の動きが激しくなっているのは、市場参加者が少なくなっていることも大きな要因だろう。休暇明けの東京市場では、久々の111─112円台で始まったものの、輸入企業の積極的なドル買いは出なかったもよう。

 複数のFX会社からは「値動きの激しさの前に、個人投資家の間では手控えムードが出ている」との指摘が聞かれた。

 先行きの見通しとしては、円高の予想が強まってきている。三菱東京UFJ銀行・チーフアナリスト、内田稔氏は、日米金利差からみれば2014年以降の適正水準は、110円割れだったと指摘する。

 だが、米利上げや日銀緩和への期待で10円以上、押し上げられていたと分析。政策期待が後退する中で、年度末のリパトリエーション(資金の本国還流)や投機的な円買いが加われば、3月末までに107─108円程度までの下落もあり得るとみている。

 みずほ銀行・チーフマーケット・エコノミスト、唐鎌大輔氏も、歴史的にドル/円の上値めどは企業物価ベースで見た購買力平価と重なると指摘。これが今は100円であるほか、経済協力開発機構(OECD)や世界銀行算出の購買力平価は105円だとして、3月末までに「100─105円への下落があってもおかしくない」と話している。

 この一方で、短期的には、日本当局による為替介入への思惑が浮上している。先進国の通貨安誘導を目的とした為替介入は「禁じ手」だが、急激な為替変動を押さえるための「スムージング介入」まで排除されているわけではない。「2週間足らずで10円幅という急激な円高進行は、為替介入を正当化する」(邦銀)との声も出ている。

 各国の協調介入でなければ、効果は限定的との見方もあるが「実際に為替介入があれば、ドル/円は少なくとも2─3円は吹き上がる」(国内金融機関)との見方もある。

 ドルショートを組んでいる投機筋の間では、政策発動に備え、ドル買い戻し/円売り戻しのポイントを現行相場に近づける動きが観測され「反発の際には、上げ足が速まりそうだ」(国内金融機関)との指摘もある。

 りそな銀行のシニアクライアントマネージャー、尾股正寿氏は、目先の相場について「適当な水準が誰にもわからず、上下に振れやすくなっている」と話していた。

(平田紀之 編集:田巻一彦)

[東京 12日 ロイター]

120x28 Reuters.gif
Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見

ワールド

対ウクライナ支援倍増へ、ロシア追加制裁も 欧州同盟

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中