最新記事

中台関係

だから台湾人は中国人と間違えられたくない

2016年2月9日(火)16時25分
譚璐美(作家、慶應義塾大学文学部訪問教授)

 2010年6月に「両岸経済協力枠組協議(ECFA)」が締結されたことで、こうした不法行為はなくなると期待されたが、台湾の企業家たちの被害は一向に減らなかった。前出の「新唐人」(2011年10月2日放送)によれば、ECFA締結の後、被害を受けた台湾の企業家25人が合同で台湾立法院に陳情書を提出して支援を求めた。

 抗議デモも2度行い、3度目の抗議デモを準備していたとき、台湾へ商用で訪れた中国の官僚からデモを取り消すよう脅迫電話を受けた。台湾の対中交渉窓口のひとつである「大陸委員会」が中国政府に異議を申し立て、「わが国では集会やデモは法律で保障され、憲法で定められた国民の権利です。政府は国民の集会の自由と権利を尊重します」と、懸念を表明した。

 こうした被害が次々に発覚して台湾メディアで取り上げられるようになると、台湾世論から反発の声が上がり、中国への好感ムードが一気に冷めていったのだ。

 それでも経済交流は進んだ。中国に対する警戒感をぬぐえないまま、今や台湾の輸出額の約4割は中国向けで占められ、中国へ進出した台湾企業は10万社にのぼっている。中国在住の台湾出身者も福建、広東、上海などを中心に100万人に達し、毎年の中台往来者総数は500万人規模にまでふくれあがっている。

中国政府は身内である「中国人」を最も冷遇する

 それにしても、なぜ中国はこれほど「台湾人」に対して理不尽な扱いをするのか。

 その疑問を解くカギがある。実は、中国には「中国人の区分」があるのだ。

「中国人」――中国国内に住む人
「同胞」――香港、台湾在住の人
「華僑」――海外在住で中国籍を所持する人
「華人」――海外在住で外国籍を所持する中国系の人

 この区分は出入国管理上の便宜的な区分なのだが、それ以上に重要なのは、ひとたび政治的な問題が持ち上がると、処遇の優劣や処罰の程度に大きな格差が生まれる点にある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中