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北朝鮮ミサイル発射の影で、兵士の「殺し合い」も起きる北朝鮮軍の実情
核とミサイルで国際社会に脅威を与えているが、栄養失調に脱北、殺傷事件と、軍の内部はお粗末そのものだ
厳しい戦力 北朝鮮軍の総兵力は120万人とされており、約68万人の米韓軍よりも多いが、長引く経済難のため、末端兵士の中から栄養失調が続出している(1月10日、中朝国境の鴨緑江をパトロールする船の北朝鮮兵) Jacky Chen-REUTERS
北朝鮮は7日午前9時31分、「人工衛星打ち上げ」と称する事実上の長距離弾道ミサイルを発射した。
これに先立ち、北朝鮮は国際機関に8日から25日の間に「人工衛星を打ち上げる計画がある」と通告していたが、6日に7日から14日に変更すると再通告。その翌日の発射であり、天候などの条件を考慮して前倒ししたとみられている。
先月の核実験と今回のミサイル発射によって、北朝鮮が国際社会にとって脅威であることを改めて知らしめたことは間違いない。北朝鮮自身も「先軍政治」と称して、軍事最優先の政治体制を標榜し、金正恩第一書記も過激な言葉で反米姿勢を露わにしている。
その一方で、北朝鮮が「百戦百勝」と誇る朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の実態はお粗末そのものだ。
北朝鮮軍の総兵力は120万人とされており、米韓軍(約68万人)よりも圧倒的に多い。しかし、長引く経済難のため、末端兵士の中から栄養失調が続出。その結果、中朝国境地帯では、飢えた兵士たちの略奪行為や脱北、そして殺傷事件が後を絶たない。事件をめぐっては、北朝鮮当局が多数の逮捕者ならびに兵士を銃殺刑に処した。
また、今の時期(毎年12月から翌年3月末まで)は、酷寒のなかで冬季訓練を行う。厳しい寒さに加えて空腹に耐えかねた兵士らは、北朝鮮国内だけでなく、中国側に越境して略奪を働くケースも多い。
一般的に、北朝鮮において軍は優遇されていると思われているが、実はそうではない。北朝鮮の市場主義が、猛スピードで進化・発展するなか、閉鎖的で自由な行動が出来ない軍隊は、逆にその波に取り残されているのだ。
つい最近では「軍服」をめぐって軍隊内で殺人事件が起きたと米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えた。事件のきっかけは、中間指揮官が給料で生活できず、支給物資を市場へ横流ししていたことだ。
(参考記事:北朝鮮、軍人同士で殺人事件が発生...犯行に及んだ意外な理由とは?)
北朝鮮軍のこうした厳しい現実と弱体化は、既に韓国側に見透かされている。だからこそ、韓国軍は昨年8月の地雷事件以来、「北朝鮮が戦争を決断する前に、先制攻撃で制圧する」という趣旨の「斬首作戦」を公に議論しているのだろう。
(参考記事:韓国で生じかねない金正恩「斬首作戦」の誘惑)
もちろん、金正恩氏や北朝鮮指導層も、こうした北朝鮮軍の現実はある程度把握していると見られる。実際に北朝鮮と米韓が戦えば、緒戦こそ「ソウルを火の海」に出来ても、中長期的には敗北するだろう。
戦力的には絶対的に不利ゆえに金正恩氏は、核とミサイルに固執する。しかし、結局のところ、その戦略は国際社会からの孤立を招き、さらなる経済悪化と軍隊の弱体化を招くだけに過ぎない。
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ――中朝国境滞在記』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)がある。