脱「敗戦国」へ、ドイツの選択
ところが95年、ボスニア東部のスレブレニツァでイスラム教徒7000人以上が殺害され、ドイツは第二次大戦後初めてヨーロッパの戦争に加わるかどうか、苦渋の選択を迫られた。
二度と戦争をしないか、二度とアウシュビッツを生まないか──。世論は真っ二つに割れた。ドイツは結局、人道的介入の名目で派兵し、NATO軍の一員として後方支援と医療支援に携わった。
99年には旧ユーゴスラビアのコソボで、国連安全保障理事会の決議なしで行われたNATO軍による空爆に参加。ドイツはやはり人道的介入だと主張したが、派兵に批判的な人々は地上部隊と空軍機の派遣は「防衛」の枠を超えていると感じた。戦後ドイツの「大きなタブーを犯した」とリービッヒは振り返る。
以来ドイツはNATOからの域外派兵要請を拒みにくくなっている。ケースバイケースで世論を説得しなければならない点は今も同じだが、以前よりは説得しやすくなっている。
ドイツは01年、NATO軍の一員としてアフガニスタンに1200人を派兵することを決定。政治家たちは当初、戦闘に参加するのではなくアフガニスタンの安定化が目的だとして派兵を正当化した。
抗議の声こそ上がったものの、国民はドイツ兵が学校を建て、現地の人々を訓練していると思っていたと、ハンブルク社会研究所の歴史家クラウス・ナウマンは言う。だがドイツ兵に戦死者が出始めると、国民はドイツが戦争をしている事実を認めざるを得なくなった。
国民の半分以上が軍備増強に賛成
92年以降、ドイツは国外で60の作戦に参加し、アフリカ、ヨーロッパ、アジア各地で国連軍とNATO軍に物資と兵員を送っている。ドイツは国際紛争にもっと責任を負うべきだと考える国民の割合は、昨年1月の34%から同10月には約40%に上昇した。
与党・キリスト教民主同盟(CDU)の議員で軍出身のロデリッヒ・キーゼベッターは、ドイツは国外の問題への関与を深めるべきだと考えている。昨年11月のパリ同時多発テロ事件以降は特にそうだが、それには軍事投資を増やす必要があるという。最近の世論調査では国民の51%が軍事費増強に賛成している(14年は32%)。
ナチスの超国家主義と戦争犯罪の遺産ゆえに、多くのドイツ人は長年、自国に誇りを持つことをためらってきた。域外派兵の目的は征服ではなく、支援でなければならないという考えが国民の間では主流を占める。
「愛国主義がドイツ人の心を動かすことは絶対にない」と、CDUらと大連立を組む社会民主党の国防問題担当ライナー・アルノルト議員は言う。「それはむしろいいことだと思う」
[2016年1月26日号掲載]