最新記事

欧州

移民急増のフィンランド、黒服自警団の台頭を懸念

2016年1月18日(月)08時07分

 ケミの街では、マイナス30度の気温にもかかわらず、「オーディンの戦士たち」が毎日街路をパトロールしている。同グループは23カ所の街で活動していると称するが、警察によれば5カ所だという。同グループが運営するフェイスブックページの「いいね」の数は7600に達している。

 グループのウェブサイトには「われわれの見解では、侵入したイスラム主義者が社会不安の原因となり、犯罪を増加させている」と書かれている。ある自称メンバーは、東部の街ヨエンスーで新会員を募集するため、グループのフェイスブックページに「白人種のフィンランドのために戦う愛国団体である」と書き込んだ。

 ドイツ東部の都市ライプチヒでは、今週、マスクをした右翼支持者200人以上が、人種差別的な含みのあるプラカードを掲げて暴れ回った。

 スウェーデンでは昨年10月、マスクをして刃物を持った男が学校を襲撃し、移民出身者2人を殺害。この事件により、難民の流入により世論が二極化しているとの懸念が高まった。

 フィンランドでは「オーディンの戦士たち」と移民のあいだの衝突は1件も報告されていないが、警察は同グループに対する注意を怠っていないと語る。安全情報局によれば、「一部の自警団」は過激主義とのつながりがあるように思われるという。

治安維持は警察の仕事

 警察は、パトロールだけなら犯罪ではないことを認めている。ケミ警察のエーロ・バンスカ警部は「パトロールして、事件と思われるものを警察に報告するだけであれば、その権利はある」と言う。しかし彼は「警察に任せるべきだ」とも付け加える。

「オーディンの戦士たち」のメンバーのなかには、グループの動機を、肌の色にかかわらず人々を助けることが目的であると控えめに表現する者もいる。一部のメンバーに犯罪の前科があるとの報道を受けて、同グループはウェブサイトを閉鎖した。ロイターが取材を試みたメンバーはコメントを拒否している。

 だが、ケミの街での創設メンバーの1人であるミカ・ランタさんは、移民が問題なのだと明言する。

 昨年10月、彼は現地紙の取材に「異なる文化が出会うという状況に気づいた。それがコミュニティーに恐怖と不安を生み出している」と答えている。「最も大きな問題だと感じたのは、新たな亡命希望者が小学校の周囲を徘徊して少女たちの写真を撮っていることをフェイスブックで知ったときだった」と言う。

 バンスカ警部は、一部の亡命希望者が学校の周囲で携帯電話を手にしている姿が見られたと述べている。だが同警部は、そうした報道は単純な誤解であり、批判を裏付ける具体的な証拠は何もないとしている。

 移民制限を掲げる保守政党「真のフィンランド人」党を含む連立政権は、自警団グループによるパトロールを批判している。

 オルポ内務相は「この種のパトロールには明らかに移民排斥・人種差別的な姿勢が見られ、彼らの行動は治安を改善していない」と指摘。「これでは、警察がそうした活動(の監視)のために乏しいリソースを割かなければならない」とロイターに語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=まちまち、トランプ関税発表控え

ワールド

カナダ・メキシコ首脳が電話会談、米貿易措置への対抗

ワールド

米政権、軍事装備品の輸出規制緩和を計画=情報筋

ワールド

ゼレンスキー氏、4日に多国間協議 平和維持部隊派遣
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中