移民急増のフィンランド、黒服自警団の台頭を懸念
大量の難民流入に社会不安が高まるフィンランドで、移民排斥・人種差別的な姿勢を鮮明にする自警団が台頭
1月13日、バイキングのシンボルとフィンランド国旗をあしらった黒いジャケットを着た、愛国者を自称する「オーディンの戦士たち」が、移民からフィンランド人を守るという名目で街路をパトロールする──。そんな状況がフィンランド政府と警察を困惑させている。写真は8日、フィンランド東部の街ヨエンスーでデモをする「オーディンの戦士たち」のメンバーたち。提供写真(2016年 ロイター)
バイキングのシンボルとフィンランド国旗をあしらった黒いジャケットを着た、愛国者を自称する「オーディンの戦士たち」が、移民からフィンランド人を守るという名目で街路をパトロールする──。そんな状況がフィンランド政府と警察を困惑させている。
欧州の北端に位置するフィンランドには、隣国のスウェーデンとは異なり、大量の難民を受け入れてきた経験がほとんどない。だが今日、他の欧州諸国と同様に、フィンランドも急増する亡命希望者への対処に追われ、関係当局は移民排斥を掲げる自警主義が発生するのではないかと憂慮している。
同国北部のケミで昨年後半、1つの若者グループが北欧神話の神の名にちなんだ「オーディンの戦士たち」を立ち上げた。ケミは、スウェーデンから到着する移民の受け入れ拠点となっている国境の街トルニオに近い。
その後「オーディンの戦士たち」は他の街にも拡大した。彼らは「職務遂行に奮闘している」警察の目や耳として奉仕したいと主張。「イスラム主義の侵入者」が犯罪増加を招いているとして、「移民お断り」などのスローガンを掲げたプラカードを手にデモを行っている。
大半のフィンランド人はこのグループに否定的だが、グループの拡大は、国内での動揺を示している。フィンランドは3年に及ぶリセッションに沈み、やむなく財政支出・福祉の削減に踏み切っており、亡命希望者の受け入れコストをめぐって緊張が生じている。
またフィンランド警察の報告によれば、ヘルシンキでの新年祝賀イベントや、昨年秋に行われた一部の公共イベントにおいて、女性が「外国出身の複数の男性」による迷惑行為を受けたという。
さらに、ケルンその他のドイツ諸都市において女性に対する性的暴力の訴えが数百件あり、主として不法移民と亡命希望者を対象とした捜査が行われている。ストックホルムでも、もっぱら移民の若者による同様の暴行について訴えがあるのに、スウェーデン警察が隠蔽しているとの主張もある。
警察の記録によれば、フィンランドにおける性的嫌がらせの報告件数は2015年9─12月の4カ月間で147件あり、前年同期の75件に対し、ほぼ倍増した。容疑者の民族別の内訳は明らかにされていない。
自警団は必要ない
政府は、自警団が活躍する場はありえないと明言している。
フィンランドのシピラ首相は12日、「オーディンの戦士たち」をめぐる懸念に応えて、「国内の法と秩序に責任を持つのは警察であるというのが原則だ」と公共放送YLEに語った。「市民による自警団が警察の権限を肩代わりすることはできない」と述べた。
同国が昨年受け入れた亡命希望者は約3万2000人で、2014年の3600人とは桁違いの急増だ。だが相対的に見れば移民コミュニティーは小さく、2014年の外国生まれの人口比率は、欧州連合の平均10%に対して約6%にすぎない。