台湾、初の女性総統が誕生するか?――そして中国は?
蔡英文氏がどんなに「現状維持」と言っても、中国は信用していない。
台独(台湾独立)は民進党の党規約にもあるとして、中国は「遠慮しない」という姿勢だ。
中国人民解放軍元高官――台湾を解放する(攻撃する)機は熟した
一軍高官の発言に目くじらを立てるのも適切ではないが、1月13日、とんでもない発言が中国内外のネットを驚かせている。
中国大陸のネット空間にある「頭条(tou-tiao)」(ヘッドライン)というウェブサイトが「元中将が台湾問題を解決する機は熟した:台湾軍隊は何日持ちこたえられるだろうか?」というタイトルの、過激な発言を発信したのだ。
それによれば、中国人民解放軍・南京軍区の副指令員だった王洪光・元中将は、「万一にも蔡英文氏が総統選挙で当選したら、中国はどうするか?」と聞かれたときに、おおむね、つぎのように答えたという(長いので概略を書く)。
――英文が総統になって、ひとことでも「台独」に触れてみろ。中国は「台独」の苦い果実を味わうつもりはない。「一つの中国」の大原則の下に、徹底的に台湾問題を解決する。その機は熟したと思うがいい。「地動山揺(大地が揺れ動く)」とはどういうことかを台湾の島民は思い知ることだろう。中国の軍隊の威力を知る日が来ることを覚悟するがいい。台湾の軍隊の勝算があるとでも思っているのか?何日間持ちこたえられると思っているのか?
筆者は昨年8月13日に本コラムで「中国の軍事パレードは台湾への威嚇」と書いたが、日本人にはあまり共感いただけなかったようだ。しかしこの王洪光元中将は、9月3日に行った軍事パレードのときに「制空権を持った中国大陸の軍隊の下では、台湾を奪取することなど簡単なことだ」と語っている。
つまり中国は9月3日の軍事パレードの目的の一つを、「台湾総統選への威嚇」に置いていたことが、この王洪光の発言によっても明らかなのである。
2015年12月31日に発表した中国の建国以来の大規模軍事改革は、一方では北朝鮮を睨み、そして一方では台湾の総統選挙への威嚇を内在している。
1949年に台湾を「解放」(中国人民解放軍が制圧すること)できなかったのは、中国人民解放軍が制空権と制海権を持ちえなかったからだ。いまその力を付けた中国大陸は、空と海により、日米を寄せ付けまいと、台湾を睨んでいる。
初の女性総統の出現は頼もしいが、激しい牙(きば)が、台湾に向けられていることを忘れてはならない。
女性総統の出現により、日本を含めた東アジアの安全保障情勢は必ず変化していくことだろう。
[執筆者]
遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。