最新記事

中国

香港「反中」書店関係者、謎の連続失踪──国際問題化する中国の言論弾圧

2016年1月6日(水)15時33分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 妻はすぐに香港の警察に連絡したが、香港の入管側には「香港を離れた記録」は残っていないという。実際、香港人が大陸に行く(戻る)ときの李氏の「回郷証」は家の中に置いたままだ。

 香港人は「大陸が故郷」という意味の「故郷に戻る通行証」のようなものを持っていて、ビザなしで大陸に行くことが出来るようになっている。中国大陸側が決めた名称だ。

 しかし出入境の記録は残るので、いつ誰が香港を出入りしたかがわかる。その記録がないのに、大陸にいるということは、大陸の中国治安当局が「拉致」という形で大陸に連行したとしか考えられない。

中英外交問題に発展か?

 実は次の項目で述べる桂民海氏の娘(イギリス在住)によれば、李波氏はイギリス国籍を持っているという。VOA(美国之音)が伝えた。

 もしそれが真実なら、中国はイギリス国民を拉致したことになる。

 イギリス外交部も黙っているわけにはいかなくなり、習近平国家主席が昨年エリザベス女王まで引きずり出して築いたはずの「中英黄金時代」は消えてしまうだろう。中国外交部報道官はこの問題に関して「詳細を知らない。このことに関する情報は今のところない」と回答している。

 イギリスは、本来、人権問題には厳しい国で、だからこそチャールズ皇太子はダライラマ法王との関係を断つことを潔(いさぎよ)しとせず、昨年の習近平国家主席訪英の際の晩餐会にも出席しなかった。イギリス国民の一部は、そのことに拍手喝さいを送っている。

 そういった民意にも配慮してか、中国の北京裁判所で弁護士の浦志強氏に対する裁判が行われたときには、中国当局が外国の記者をシャットアウトしたことに対して、イギリスは非難声明を出すなどして、ささやかな抵抗を表示しているほどだ。

 もし李波氏がイギリス国籍を持っているのが真実であり、かつ今般の失踪が中国当局による拉致だと判明すれば、これは確実に大きな国際問題に発展していくことだろう。

他の4人の奇怪な失踪

 銅鑼湾書店には実は「巨流傳媒(メディア)有限公司」という親会社があるのだが、昨年10月17日、親会社の株主の一人である桂民海氏(スウェーデン国籍)がタイにいたときに、突然消息不明となった。桂氏の妻は、11月に夫からの電話を受け、ひとこと「無事だ」と言っただけで、その後、行方不明になったままだ。前出のイギリスに留学している娘は、駐英のスウェーデン大使館に救助を求めたが、未だいかなる情報も得られていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油は5ドル過小評価、対イラン制裁で供給減のリスク

ワールド

今年のタイ経済成長率は2.7%、来年は2.9%に加

ワールド

中国のCO2排出量、24年に小幅増の見込み 気候目

ビジネス

日経平均は続落、円高を嫌気 感謝祭前の利益確定売り
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳からでも間に合う【最新研究】
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 4
    放置竹林から建材へ──竹が拓く新しい建築の可能性...…
  • 5
    「健康食材」サーモンがさほど健康的ではない可能性.…
  • 6
    こんなアナーキーな都市は中国にしかないと断言でき…
  • 7
    早送りしても手がピクリとも動かない!? ── 新型ミサ…
  • 8
    トランプ関税より怖い中国の過剰生産問題
  • 9
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中