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人権問題北朝鮮による拉致被害者「20万人」をいつまで放置するのか
来日した国連のダルスマン特別報告者は、帰国事業で北に渡った在日朝鮮人や日本人配偶者らを含め、北朝鮮指導部に対する責任追及の取り組みを訴えた
日本人配偶者問題もカギに 拉致被害者の家族と面談した際、「拉致は人類に対する犯罪」と述べた国連のダルスマン北朝鮮人権状況特別報告者だが、その姿勢は北朝鮮だけでなく日本政府にとっても重い意味を持つ(1月18日) Yuya Shino-REUTERS
「北朝鮮の指導者層が拉致に協力したことを認めさせる局面に入りたい」
来日した国連のマルズキ・ダルスマン北朝鮮人権状況特別報告者は18日、内閣府で拉致被害者の家族と面談した際、このように語ったという。同氏は「拉致は人類に対する犯罪」であるとも述べ、北朝鮮指導部に対する責任追及に向けた取り組みの重要性を指摘した。
しかし、国連特別報告者のこうした姿勢は北朝鮮だけでなく、日本政府にとっても重い意味を持つ。筆者がそのように主張する理由は、北朝鮮にいる日本人配偶者問題にある。
(参考記事:北朝鮮の「日本人妻帰国」提案を日本側が拒否...本当にそれで良いのか!?)
日本政府は、北朝鮮による日本人拉致被害者として17人を認定している。一方、特定失踪者問題調査会などからは、被害者の数は百人単位に上るとの見解も出ている。
では、国連が北朝鮮による拉致(および強制失踪)被害者がどれくらいいると考えているかといえば、その数は20万人である。どうしてそんなに多いのかというと、いわゆる「帰国事業」で北朝鮮へ渡った在日朝鮮人とその日本人配偶者たち、朝鮮戦争で捕らわれた韓国人らが含まれているためだ。
本人の意思にまるで関係なく連れ去られた日本人拉致被害者と、帰国運動で渡り結果的に自由を奪われた人々とでは、発生した経緯がまるで違う。しかし、国連が人権という普遍的な観点からこの問題を見みたとき、これらの人々は等しく救済されるべき被害者になるのだ。
また、相当数の帰国者や日本人配偶者、その子孫が政治犯収容所で凄惨な虐待を受けている可能性が高いことを考えたとき、この人々を救出すべきという問題は緊急性を帯びてくる。
(参考文献:国連報告書「政治犯収容所などでの拷問・強姦・公開処刑」)
とりわけ日本人妻とその子供たちは、日本国民にとっては「同胞」である。日本政府が手を差し伸べずして、どのような救出があり得るだろうか。
拉致被害者家族会の増元照明元事務局長はダルスマン氏に対し、「人権は核と同様もしくはそれ以上の深刻な問題だと再認識してもらいたい」と要請したというが、まさにその通りだろう。
だからこそ日本政府は、上記の国連報告書に基づく国連総会の決議をEUとともに推進した。そうである以上、北朝鮮におけるあらゆる人権問題に関心を向けるのが道理だ。もっとも、北朝鮮に拉致されたすべての人々の救出に、同時に取り組むのは現実的に無理かもしれない。
しかし少なくとも、「同胞」である日本人配偶者の救出には、日本政府もマスコミももっと関心を向けるべきだ。それをせずあくまで「放置」するというのなら、いずれ日本に対し「人権軽視」の声が上がらないとも限らないだろう。
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ――中朝国境滞在記』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)がある。