郊外の多文化主義(3)
従来の「多文化共生」を掲げる議論は、結果的には同化主義と変わらず、排除的言説さえ産み出してきた。更には問題を「社会文化領域」に矮小化するが故に、根本的解決の道筋を示せないできたとも言え、この状況で必要なのは、現在支配的な「顔の見えない定住化」を帰結する均衡から、より人間の発達に寄与する均衡に至るための条件を整備することであり、それこそが「統合」なのである。
すなわち、「政治経済的な平等」と「社会文化的な相違の維持」である。前者に関しては、現状を「政府の失敗」、「市場の失敗」に起因するものとみて何らの規制もなく過度にフレキシブル化の進んだ労働市場に国家が適切な介入を行い、より望ましい均衡を作り出す必要がある。また、後者に関しては、「外国人が自文化を保持する権利」を明記すべきだと樋口は主張している。以下の最終節では、このような「政治経済的」観点を重視した「統合」を法哲学/政治哲学的に基礎づける議論を検討することにしたい。
※第4回:郊外の多文化主義(4) はこちら
[執筆者]
谷口功一(首都大学東京法学系准教授)
1973年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。日本学術振興会特別研究員を経て現職。専門は法哲学。著書に『ショッピングモールの法哲学』(白水社)、『公共性の法哲学』(共著、ナカニシヤ出版)など。
ブログより:移民/難民について考えるための読書案内――「郊外の多文化主義」補遺
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