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郊外の多文化主義(3)

 世界的に都市空間の二極化が進行する中、公営団地をめぐる問題は80年代以降、英米仏でも同様に発生しているが、日本特有の問題として「高齢者の占める割合が高い」ことが指摘される(欧米の公営団地においては「高齢者の集中」は珍しく、むしろ、若年層の割合が高い)。高齢者も外国人も「自力で民間の住居を確保することが難しい」という点で共通しており、いずれもが「住宅弱者」であり、かつ「貧困」を抱えているのである。

 現状では、「自立」支援として社会的弱者を同じ空間に集中させる=団地に入居させようとしているが、「それは異なったリスクを抱えた人びとを集めて団地を(福祉)施設化していること」に他ならない。「福祉的色彩を強めた団地」はコミュニティとしての活力を失う。問題を抱えた人びとを一箇所に集めることで、その空間のネガティブなイメージが増幅し、そこの出身というだけで軽蔑されるような事態が発生するのである。このようなマイナスイメージが定着すると「住民は自己の尊厳を守るため......そこから抜け出すことを画策するようになる。団地内で学力が高いなどの個人的資源を持ち、社会的上昇の可能性を持つ者は、団地からの「脱出」を目指し、それに成功することが多い」――能力の高い者が転出すると、団地の潜在的な力は一層低下し、立て直しは困難になるのである。

 以上のような形で描き出される状況は、社会学者ゴードン(Milton M. Gordon)によって発案された「エスクラス(ethclass)」状況として捉えられるべきだと樋口は指摘する。エスクラスとは、「エスニシティ(ethnicity)」と「階級(class)」を掛け合わせた造語であり、それら二つの重なり合った状態を意味している。このようなエスクラス状況は実のところ、日本人のトヨタ期間工でも事情を一にしている。「期間工」という(脱着不能な)属性は存在しないが「ブラジル人」という属性は存在するため「ブラジル人問題」というカテゴライズが行われることとなるのである。このような「エスクラス」を構成する要素のうち「エスニシティ」にしか目を向けない「共生」ではなく、「クラス」=政治経済的領域にも目を向けた「統合」が目指されるべきなのである。

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