最新記事

領土問題

やがて中国が直面する「国際的代償」、南シナ海の紛争に国際裁判所が手続き

裁判自体を否定する中国だが、不利益な裁定が出れば外交上の重荷に

2015年12月4日(金)19時41分

12月2日、一部の外交関係者らによれば、南シナ海における領有権問題に関してフィリピンが中国を相手取って起こした仲裁手続きについて、常設仲裁裁判所が最終的にフィリピンに有利な裁定を下せば、中国は外交・司法面での強い圧力にさらされる可能性がある。写真は、中国が人工島を建設している南シナ海スプラトリー諸島のミスチーフ礁。5月代表撮影(2015年 ロイター)

 常設仲裁裁判所(オランダ、ハーグ)は10月末、南シナ海における領有権問題に関してフィリピンが中国を相手取って起こした仲裁手続きについて、同裁判所に管轄権があるとの判断を示した。このとき中国政府は「何ももたらさない」としてこの判断を受け入れていない。

 こうした中国の主張には、フィリピン当局者だけでなく、一部の外交関係者および専門家も賛同しておらず、常設仲裁裁判所が最終的にフィリピン政府に有利な裁定を下せば、中国は外交・司法面での強い圧力にさらされる可能性があると述べている。

 司法専門家によれば、管轄権をめぐる審理における中国側の主張に対して同裁判所が詳細に反駁(はんばく)していることから、フィリピン政府が勝利を収める可能性はかなり大きいという。最終的な裁定は2016年半ばに予定されている。

 外交関係者・専門家によれば、こうした裁定が下れば、特に地域的な会合の場において中国の重荷になるという。南シナ海の紛争に国際裁判所が初めて介入することになり、中国政府としても無視しにくくなるからだ。

 フィリピン政府が2013年に常設仲裁裁判所に申し立てを行ったときにはほとんど注目を集めず、その後ももっぱら、航路をめぐって展開される緊張の添え物のような扱いを受けていたが、一部のアジア・西側諸国が仲裁裁判所によるプロセスに対して表明する支持は強まりつつある。

 ある専門家は、もし主要な論点について中国に不利な裁定が下されれば、2国間会合や国際的なフォーラムにおいて、西側諸国が中国政府に対する圧力を維持する協調的な立場を取るようになることが予想される、と指摘する。

「他国は中国政府を批判するための材料として裁定を利用するだろう。だから中国はこの問題でひどく動揺している」と語るのは、東南アジア研究所(シンガポール)の南シナ海専門家、イアン・ストーリー氏。

 ワシントンの戦略国際問題研究所の安全保障専門家ボニー・グレーザー氏も「ここに都合の悪い真実がある。中国側は、(仲裁裁判所による裁定を)無視し、拒絶することなど簡単だという素振りを見せてきた。しかし実際には、彼らは国際的な代償を払わざるをえなくなると思う」との見方を示した。

提訴は「無意味」と中国は主張

 フィリピン政府は、国連海洋法条約(UNCLOS)で認められた200カイリの排他的経済水域(EEZ)に含まれる南シナ海で開発を行う権利に関する裁定を求めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中