最新記事

領土問題

やがて中国が直面する「国際的代償」、南シナ海の紛争に国際裁判所が手続き

2015年12月4日(金)19時41分

 同条約は主権問題を対象としてはいないが、島嶼(とうしょ)・岩礁などを起点として主張可能な領海・経済水域の体系を大枠で定めている。

 実質的に南シナ海全域に関する権利を主張している中国は、国連海洋法条約を批准しているとはいえ、今回の審理に参加することを拒否し、この件に関する常設仲裁裁判所の管轄権を否定している。この水域の各部分については、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、台湾も権利を主張している。

 法律の専門家によれば、中国に不利な裁定が下された場合、法的な拘束力は持つものの、裁定を執行する機関が存在しないため、政治的圧力以上の効果については予想できないという。

 常設仲裁裁判所からのコメントは得られなかった。

 中国外務省は1日、中国に対して課されるいかなる決定も中国政府は承認しないとの主張を繰り返した。同国は11月24日、この裁判について「南シナ海における中国の領海主権を否定しようとする無益な試み」だとしている。

 オーストラリア国立大学のマイケル・ウェスリー教授(国際関係論)は、中国はいかなる裁定にも拘束される気はないだろうと語る。

 「南シナ海問題は中国の考え方を示す典型的な例だ。中国は、現実には(大規模な)紛争のリスクを引き受けることなく、この地域における米国の優位を拒否・排除し、中国がその立場を引き継ごうとしている」と同教授は話す。

国際的な関心の高まり

 外交関係者の多くにとって、この裁判は、年間5兆ドル(約613兆円)もの海上貿易が経由する航路に関して、中国に国際的な法規範を受け入れさせるうえで重要である。

 ベトナム、マレーシアなどこの海域に関して領有権を主張する国の他にも、日本、タイ、シンガポール、オーストラリア、英国など、常設仲裁裁判所による裁定を遵守するよう中国に要請した国は多い。

 米政府は同裁判所での審理プロセスを支持しているし、ドイツのメルケル首相も10月に北京を訪問した際に、南シナ海での紛争の解決に向けて国際司法に委ねるよう中国に示唆した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中