最新記事

中東

空爆だけではISISはつぶせない

2015年12月16日(水)17時00分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

 ラムズフェルドの主張には妥当な部分もあった。標的から1㍍以内に着弾できる精密誘導爆弾(従来型の爆弾は100㍍程度外れる)の登場によって、これまでなら兵士が近づいて攻撃していた標的(戦車や砲台、兵士など)を航空機やドローンで破壊できるようになった。

 だが、この新しい時代を称賛する人々は、アフガニスタンの別の教訓に気付いていなかった。それは、新しい兵器は時代遅れの歩兵と連動したときだけ力を発揮するということだ。

 イギリスの最初のシリア空爆はISISの戦闘員ではなく、この組織が支配する油田を狙った。空爆はそうした標的への攻撃に適切な手段だ。しかし、空爆の拡大が戦況を変えるとは考えないほうがいい。

 第1に、空爆が与えた被害の程度はまだ分からない。同じことはパリ同時多発テロの後、フランスがシリアのラッカ(ISISが「首都」と称する都市)で行った空爆にも言える。フランス政府当局は空爆でISISの「命令・統制」に関わる標的を破壊したと言うが、それが何かは明らかになっていない。この空爆によって、ISISの司令官が兵士に命令を出せなくなったという証拠はない。

 第2に、ISISは石油を売って利益を得ているが、収入源はそれだけではない。第二次大戦から90~91年の湾岸戦争にかけて、空軍力の信奉者は一定の重要な戦略的目標を破壊すれば敵の軍(または国家や社会)はおのずと崩壊すると主張した。だが、実証された例はない。

 油田をはじめとするISISの資産を空爆の標的から外せという意味ではない。どんなに小規模の攻撃でも、多くの戦線で同時に戦うことに慣れていないISISのような敵には効果があるかもしれない。

 だが今回の英空軍の空爆のように「象徴」だけの攻撃に終わるなら、戦況を有利にできないばかりか、マイナスにもなりかねない。体裁を繕うだけの空爆は、敵の士気と評判を高める可能性がある。「世界の大国がこれだけ激しい空爆をしているのに、われわれは負けていない」と、ISISの幹部や兵士勧誘担当者が自慢しかねない。

公正な政治実現の土台に

 英空軍の空爆が報じられた日に、もっと重要なニュースがあった。イラクで少なくとも600人のスンニ派の部族兵が、数カ月前には敵対していた米兵から訓練を受け、イラク軍と力を合わせ、中西部アンバル州の州都ラマディからISISを追い出す攻撃に加わろうとしているという。この攻撃は間違いなく、米軍の空爆による支援を受ける。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中