空爆だけではISISはつぶせない
ラムズフェルドの主張には妥当な部分もあった。標的から1㍍以内に着弾できる精密誘導爆弾(従来型の爆弾は100㍍程度外れる)の登場によって、これまでなら兵士が近づいて攻撃していた標的(戦車や砲台、兵士など)を航空機やドローンで破壊できるようになった。
だが、この新しい時代を称賛する人々は、アフガニスタンの別の教訓に気付いていなかった。それは、新しい兵器は時代遅れの歩兵と連動したときだけ力を発揮するということだ。
イギリスの最初のシリア空爆はISISの戦闘員ではなく、この組織が支配する油田を狙った。空爆はそうした標的への攻撃に適切な手段だ。しかし、空爆の拡大が戦況を変えるとは考えないほうがいい。
第1に、空爆が与えた被害の程度はまだ分からない。同じことはパリ同時多発テロの後、フランスがシリアのラッカ(ISISが「首都」と称する都市)で行った空爆にも言える。フランス政府当局は空爆でISISの「命令・統制」に関わる標的を破壊したと言うが、それが何かは明らかになっていない。この空爆によって、ISISの司令官が兵士に命令を出せなくなったという証拠はない。
第2に、ISISは石油を売って利益を得ているが、収入源はそれだけではない。第二次大戦から90~91年の湾岸戦争にかけて、空軍力の信奉者は一定の重要な戦略的目標を破壊すれば敵の軍(または国家や社会)はおのずと崩壊すると主張した。だが、実証された例はない。
油田をはじめとするISISの資産を空爆の標的から外せという意味ではない。どんなに小規模の攻撃でも、多くの戦線で同時に戦うことに慣れていないISISのような敵には効果があるかもしれない。
だが今回の英空軍の空爆のように「象徴」だけの攻撃に終わるなら、戦況を有利にできないばかりか、マイナスにもなりかねない。体裁を繕うだけの空爆は、敵の士気と評判を高める可能性がある。「世界の大国がこれだけ激しい空爆をしているのに、われわれは負けていない」と、ISISの幹部や兵士勧誘担当者が自慢しかねない。
公正な政治実現の土台に
英空軍の空爆が報じられた日に、もっと重要なニュースがあった。イラクで少なくとも600人のスンニ派の部族兵が、数カ月前には敵対していた米兵から訓練を受け、イラク軍と力を合わせ、中西部アンバル州の州都ラマディからISISを追い出す攻撃に加わろうとしているという。この攻撃は間違いなく、米軍の空爆による支援を受ける。