「中国は弱かった!」香港サッカーブームの政治的背景
また、香港代表も試合前に演奏される国歌は中国と同じく義勇軍行進曲だが、「Hong Kong is not China」の精神を体現するべく、ここ数試合では国歌演奏中に香港人観客がブーイングをあげていた。国歌に対する侮辱としてFIFA(国際サッカー連盟)から罰金が科され、今後も同様の事態が続けば勝ち点剥奪などさらに重い処分が与えられると警告されていた。そのため17日の試合では国歌演奏中に「Boo」と書かれた紙を掲げたり、背中を向けたりという方法で抗議する姿も見られた。
予選敗退濃厚、なぜ中国代表は弱いのか
さて、中国側から見ると、「国足」(中国代表)がまた失態をやらかしたということになる。中国代表は2002年に初のW杯出場を果たしたものの、その後は最終予選にすら進めない低迷が続いている。中国でサッカーはバスケットボールと並ぶ人気スポーツだが、レベルの高い欧州リーグがテレビ中継されるということもあって、「中国のレベルはひどい」と嘆くのが中国人サッカーファンの常だ。
この状況を一転させると期待されたのが習近平国家主席の登場だった。習主席は大のサッカー好きとして知られ、先日の英国訪問でもプレミアリーグを視察したほど。「夢は中国代表をW杯で優勝させることだ」と公言してはばからない。
すでに大々的な強化プランがスタートしている。2017年までに全国に2万校ものサッカー特色学校を設立する。小中高校の6~8%がサッカー特色学校に指定されるという。関連してサッカー専門教員の研修、専用スタジアムの建設が進められるほか、優秀な選手の欧州留学をサポートすることが決まった。
またプロリーグである中国スーパーリーグのレベルアップのため、世界的なスター選手を招聘するよう各クラブに通達されている。サッカー好きの習主席の歓心を買うためといってはうがちすぎかもしれないが、中国のクラブは指示通り次々と有力選手を獲得している。トップチームである広州恒大クラブはすでに、AFCチャンピオンズリーグで優勝し、アジア最強の地位を確立した。
とはいえ、これで中国サッカーが強化されるかどうかは未知数だ。そもそも中国スポーツの低迷には根本的な原因がある。旧ソ連同様、中国のスポーツはステートアマ育成に重点を置いていた。ステートアマとは国によって身分や生活を保障され、スポーツに専念できる環境を与えられた選手のことだ。個人がアマチュア選手としてスポーツに打ち込むわけでも、プロ選手としての成功を目指すわけでもない。政府の指示によってスポーツに取り組む選手を意味する。こうしたステートアマを育成するため、中国各地にスポーツ専門校が設立され、才能ある若者を子ども時代から練習漬けにしてトップ選手が育成された。
国の栄誉のためにプレーするのはもちろんのこと、こうした強化には自治体のメンツ、地方官僚の政治的業績という側面もあった。全国運動会(日本の国体に相当)で自治体同士のメダル争いで勝利すれば、それは官僚の業績となる。メダル争いをするためには何十人もの選手で一つのメダルしか取れない球技よりも、個人種目のほうが効率的。そのため団体種目の強化は個人種目と比べておろそかになりがちだ。