最新記事

南シナ海

一隻の米イージス艦の出現で進退極まった中国

2015年10月29日(木)16時26分
小原凡司(東京財団研究員)

 唐突に見える米海軍のオペレーションであるが、米国にとってみれば、既定路線であるとも言える。9月の習近平主席訪米の際に実施された米中首脳会談の結果を待って、オペレーションのステージを上げたのだ。

 米国が、中国に対する態度の変化を明らかにしたのは、今年の5月である。米海軍のP-8哨戒機に、CNNのクリューを乗せて、中国の南シナ海における埋め立て等の状況を報道させたのだ。

 それまでにも、米国のシンクタンクであるCSIS等を通じて、中国の人工島建設の状況は公開されてきたが、より広く世界に対して、中国の活動を知らしめたことになる。米国は、段階を踏んで中国に対して圧力をかけているということである。

 中国の活動を世界に知らしめた、ということは、この問題が米中二国間の問題ではないことを示し、米国は水面下で中国と交渉したりしない、という意思を表明したことにもなる。中国が望む米中「新型大国関係」を否定するということだ。

 この時、米国防総省のスポークスマンは、「将来、中国の人工島から12海里以内の海域に、米海軍のビークル(艦艇或いは航空機)が進入することはあり得る」と述べている。中国に対して、圧力をかけ、譲歩を迫ったのだ。

 米国が見据えていたのは、9月の米中首脳会談である。この会談で、習近平主席が譲歩の姿勢を示さなければ、オペレーションのステージを上げるということである。すなわち、中国の人工島から12海里の海域に、米海軍が進入するということだ。

アメリカの警告を無視した習近平に激怒したオバマ

 実際、直接、習近平主席と議論したオバマ大統領は、中国側が、米国の警告に対して、全く取り合わないことに怒りを露わにし、その後、今回のオペレーションを承認したと報じられている。

 米国防総省にしてみれば、中国に対応する行動を採るのは遅すぎると感じているかも知れない。一方で、米国は、中国に対して譲歩していない。速度は遅いかもしれないが、米国は、自らの意思を通すために、着実に対応の段階を上げている。

 実は、米国が懸念を有している中国の行動は、南シナ海だけではない。5月に公表された米国の議会報告書の中は、中国の、サイバー空間や宇宙での活動に言及している。

 オバマ大統領の中国に対する危機感を高めたのは、サイバー攻撃や衛星破壊等による、米国の軍事を含むネットワークに対する攻撃であるとも言われる。

 南シナ海における人工島建設と軍事施設化とも思われる活動は、これらの活動と合わせて、中国の意図に対する米国の懸念を増大させるものなのだ。

 米国が中国の衛星破壊兵器の開発等を非難する時、中国が「中国は、宇宙の平和利用を尊重している」と建前だけで非難をかわそうとすることにも、米国はいら立ちを募らせる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中