中央アジアを制するのは誰か、安倍歴訪の語られざる真意
ロシアの下腹、中国の裏庭で日本は何を目指す? 地政学上の要衝5カ国と日本が手を組む真の理由
利害が一致 トルクメニスタンのベルドイムハメドフ大統領と安倍首相の会談(13年) Shizuo Kambayashi-REUTERS
安倍晋三首相の中央アジア訪問が佳境だ。日本のマスコミでは、トルクメニスタンなど同地域での受注総額2兆円に上る資源・エネルギー関連大型プロジェクトの話題でにぎわっている。くれぐれも先方の支払い能力を見定めて進めてほしいものだが、そうした経済面だけでなく、ここではこの訪問の政治的な意味も吟味してみよう。
「ユーラシアの心臓部を制するものは世界を制する」と、イギリスの地政学の祖ハルフォード・ジョン・マッキンダーが言うように、19世紀からロシアはインド洋へ南下を策し、イギリスと中央アジアで覇を争った。今またここは、中ロ米間の新たなグレート・ゲームの地になったと、まことしやかに言われる。
中央アジアの南半分は農耕地帯で、古代からペルシャ諸王朝の要衝として古い歴史を持つ。19世紀にロシアの支配下に入り、ソ連崩壊とともに中央アジア5カ国として独立した。5カ国は今、人口は合わせて6700万弱、GDPは3400億ドル弱。内陸のため輸出入とも輸送費のハンディがある。政治では中世以来の権威主義、経済ではソ連時代の集権制が根強く残る。
中央アジア諸国は今、中国マネーに引かれる。習近平(シー・チンピン)国家主席の下、中国は「一帯一路」を標榜し、シルクロード基金(資本金400億ドル)やアジアインフラ投資銀行(AIIB。資本金1000億ドル)をつくって、何でも融資するとの構えを見せる。中央アジアを旧ソ連の中で残された数少ない勢力圏と考えるロシアも、当初中国に抵抗したものの、3月にはAIIBに参加を表明し、中国マネーをむしろ利用する方向に転じた。
中ロに物申せる手助けを
中国は中央アジアを支配したことはない(チンギス・ハンはモンゴル人)。中央アジアは中国に文化的親近感を持たず、エリート層にはロシア語やロシア留学が相変わらず幅を利かせる。
タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンと接するアフガニスタンには、イスラム原理主義勢力タリバンがはびこる。ロシアはタジキスタンに兵力1個師団を保持し、集団安全保障条約機構(CSTO)により緊急展開できる空挺軍も有し、中央アジア諸国にとって最後の頼みの綱になる。