最新記事

外交

中央アジアを制するのは誰か、安倍歴訪の語られざる真意

ロシアの下腹、中国の裏庭で日本は何を目指す? 地政学上の要衝5カ国と日本が手を組む真の理由

2015年10月29日(木)17時45分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

利害が一致 トルクメニスタンのベルドイムハメドフ大統領と安倍首相の会談(13年) Shizuo Kambayashi-REUTERS

 安倍晋三首相の中央アジア訪問が佳境だ。日本のマスコミでは、トルクメニスタンなど同地域での受注総額2兆円に上る資源・エネルギー関連大型プロジェクトの話題でにぎわっている。くれぐれも先方の支払い能力を見定めて進めてほしいものだが、そうした経済面だけでなく、ここではこの訪問の政治的な意味も吟味してみよう。

「ユーラシアの心臓部を制するものは世界を制する」と、イギリスの地政学の祖ハルフォード・ジョン・マッキンダーが言うように、19世紀からロシアはインド洋へ南下を策し、イギリスと中央アジアで覇を争った。今またここは、中ロ米間の新たなグレート・ゲームの地になったと、まことしやかに言われる。

 中央アジアの南半分は農耕地帯で、古代からペルシャ諸王朝の要衝として古い歴史を持つ。19世紀にロシアの支配下に入り、ソ連崩壊とともに中央アジア5カ国として独立した。5カ国は今、人口は合わせて6700万弱、GDPは3400億ドル弱。内陸のため輸出入とも輸送費のハンディがある。政治では中世以来の権威主義、経済ではソ連時代の集権制が根強く残る。

 中央アジア諸国は今、中国マネーに引かれる。習近平(シー・チンピン)国家主席の下、中国は「一帯一路」を標榜し、シルクロード基金(資本金400億ドル)やアジアインフラ投資銀行(AIIB。資本金1000億ドル)をつくって、何でも融資するとの構えを見せる。中央アジアを旧ソ連の中で残された数少ない勢力圏と考えるロシアも、当初中国に抵抗したものの、3月にはAIIBに参加を表明し、中国マネーをむしろ利用する方向に転じた。

中ロに物申せる手助けを

 中国は中央アジアを支配したことはない(チンギス・ハンはモンゴル人)。中央アジアは中国に文化的親近感を持たず、エリート層にはロシア語やロシア留学が相変わらず幅を利かせる。

 タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンと接するアフガニスタンには、イスラム原理主義勢力タリバンがはびこる。ロシアはタジキスタンに兵力1個師団を保持し、集団安全保障条約機構(CSTO)により緊急展開できる空挺軍も有し、中央アジア諸国にとって最後の頼みの綱になる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国最大野党の李代表に逆転無罪判決、大統領選出馬に

ビジネス

独VWの筆頭株主ポルシェSE、投資先の多様化を検討

ビジネス

日産、25年度に新型EV「リーフ」投入 クロスオー

ビジネス

通商政策など不確実性高い、賃金・物価の好循環「ステ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 5
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 6
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 7
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 8
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 9
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 10
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中