シリア空爆の深遠なる打算
シリア国内の「テロ組織」や「過激派」を幅広く定義するロシアは、アメリカが支援する穏健派の反政府武装勢力、自由シリア軍(FSA)も過激派組織に分類する可能性がある。ロシア軍が最初に狙うのは、アサド政権にとって最大の脅威になっているアルカイダ系武装勢力、アルヌスラ戦線だろうとの見方も出ている。
第2に、ロシアの軍事介入により、シリアで軍事作戦を展開するほかの国々は身動きが取りづらくなった。
アサドを支援するロシアは反体制派の敵
アメリカ主導の対ISIS有志連合は昨年、シリア空爆を開始した。彼らの本当の標的はアサド政権側の拠点ではないかと、ロシアは疑っていた。今回、自国も空爆に踏み切ったことで、ロシアは有志連合を牽制することができる。
同時に、有志連合側との情報交換や作戦協力を通じて、アサド政権を「反ISIS共同戦線」の一員とするべきだとの主張を売り込み続けること、ひいてはアサドの国際的孤立を解消することが可能になる。
第3の理由は、ロシアの外交的地位が強化されていることだ。シリア問題の行方は今や、ロシア抜きでは決められない。
先月末の空爆開始直後から、ロシアと欧米の接触は盛んになった。これは単なる偶然ではない。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は先週、ジョン・ケリー米国務長官と協議を行ったが、結果にご満悦の様子だった。
ただしロシアの行動には、大きな欠陥もある。ロシアが空爆を始める前から、バラク・オバマ米大統領ら欧米の指導者と地域大国のトルコやサウジアラビアは、プーチンをシリアの和平仲介者として認めるべきか否か、ジレンマに陥っていた。
空爆開始後、ロシア政府に対する不信感は飛躍的に高まった。交渉を有利に展開したいというロシアのもくろみは今後、大きな障害に直面するはずだ。
シリア反政府勢力内の世俗派やイスラム教穏健派組織とロシアとの関係も悪化するだろう。彼らはロシアを、政権側に立って戦う敵と見なし始めている。となれば、政権と反政権派の仲介役を務めることは難しい。
ロシアが軍事作戦という重荷をどこまで担えるかも疑問だ。地上軍の派遣はないとされるが、現在の規模でシリア駐留を維持するだけでも、経済制裁やウクライナ東部での「経費」で疲弊しているロシア経済にとって大きな負担になる。作戦が数カ月どころか数年続く可能性があるとなっては、なおさらだ。
だがどうやらロシアは今のところ、正しい戦略を選択したと確信している。シリアでの軍事作戦の中止や、アサド政権寄りの姿勢の転換を求めるのは時間の無駄だ。クレムリンは中東地域のキープレーヤーの座を手にするべく、すべてを計算した上で行動を開始したのだから。
[2015年10月13日号掲載]