軍事パレードにおける習近平「講話」の意味
抗日戦争を、正義と邪悪の戦いである反ファシスト戦争の一部と位置づけ、中国人民が、いかに苦しい戦いを戦い抜いたのかを述べた後、その中国を支援し助けてくれた「外国の政府と友人たち」に感謝を述べて、第2の部分に移行する。
第2部では、世界に対して、ともに平和発展の崇高な事業を推進しようと呼びかける。しかし同時に、中国が創ろうとしている国際社会が、現在の国際社会そのままではないことも示している。
「世界各国は、国連憲章の趣旨と原則を核心とした国際秩序と国際システムをともに維持しなければならない」とした上で、「協力とWin-Winの関係を核心とした『新型国際関係』を積極的に構築しなければならない」としたのだ。
「実力の誇示」がパレードではすまなくなる可能性も
中国の国際情勢認識の裏返しである。今年3月23日、王毅外交部長は、「新型国際関係」を主題とした講演を行っている。その中でも、中国は、「対抗に替えて協力を、独占に替えてWin-Winを」主張するとして、現在の国際社会が、中国にとって不公平であると認識していることを示唆した。
現在の国際ルールを変更し、中国が言う公平な、すなわち、中国にとって有利なルールを創ろうというのだ。中国が考える現在の国際社会の勝者は米国である。中国指導部は、米中両大国が、新たな国際ルールを決めていくことを国民にアピールしたかった。
しかし、軍事パレードを実施することで、国際社会が中国に対する警戒心を高めることも理解している。中国が「平和」を口にしたところで、他国は信用しないのだ。そこで、具体的に「平和の支持者」であることを示す必要もあった。近代化・機動化のために必要とされている人民解放軍の30万人削減を、この「講話」の中で表明したのもその一つだろう。
最後の部分は、先ず、「中華民族は燦然と輝く明日を創出できる」と呼びかける。そして、先の二つの部分を踏まえて、短く、しかし明確に、国民に共産党の指導に従うように求めたのである。この結論こそ、中国指導部が国民に求めるものだ。
しかし問題は、他国を挑発したくないと考えているとしても、国内の状況に危機感を有する中国指導部には、国民に「明るい将来」を信じさせるために、時として、中国の実力を誇示する必要があるということである。
国際社会は、その実力の行使が、単なるイベントではなく、実際の他国との紛争の場面で行われることがないよう、注視していく必要があるだろう。
[執筆者]
小原凡司
1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。東京財団研究員