最新記事

中国政治

軍事パレードにおける習近平「講話」の意味

2015年9月7日(月)18時00分
小原凡司(東京財団研究員)

 抗日戦争を、正義と邪悪の戦いである反ファシスト戦争の一部と位置づけ、中国人民が、いかに苦しい戦いを戦い抜いたのかを述べた後、その中国を支援し助けてくれた「外国の政府と友人たち」に感謝を述べて、第2の部分に移行する。

 第2部では、世界に対して、ともに平和発展の崇高な事業を推進しようと呼びかける。しかし同時に、中国が創ろうとしている国際社会が、現在の国際社会そのままではないことも示している。

「世界各国は、国連憲章の趣旨と原則を核心とした国際秩序と国際システムをともに維持しなければならない」とした上で、「協力とWin-Winの関係を核心とした『新型国際関係』を積極的に構築しなければならない」としたのだ。

「実力の誇示」がパレードではすまなくなる可能性も

 中国の国際情勢認識の裏返しである。今年3月23日、王毅外交部長は、「新型国際関係」を主題とした講演を行っている。その中でも、中国は、「対抗に替えて協力を、独占に替えてWin-Winを」主張するとして、現在の国際社会が、中国にとって不公平であると認識していることを示唆した。

 現在の国際ルールを変更し、中国が言う公平な、すなわち、中国にとって有利なルールを創ろうというのだ。中国が考える現在の国際社会の勝者は米国である。中国指導部は、米中両大国が、新たな国際ルールを決めていくことを国民にアピールしたかった。

 しかし、軍事パレードを実施することで、国際社会が中国に対する警戒心を高めることも理解している。中国が「平和」を口にしたところで、他国は信用しないのだ。そこで、具体的に「平和の支持者」であることを示す必要もあった。近代化・機動化のために必要とされている人民解放軍の30万人削減を、この「講話」の中で表明したのもその一つだろう。

 最後の部分は、先ず、「中華民族は燦然と輝く明日を創出できる」と呼びかける。そして、先の二つの部分を踏まえて、短く、しかし明確に、国民に共産党の指導に従うように求めたのである。この結論こそ、中国指導部が国民に求めるものだ。

 しかし問題は、他国を挑発したくないと考えているとしても、国内の状況に危機感を有する中国指導部には、国民に「明るい将来」を信じさせるために、時として、中国の実力を誇示する必要があるということである。

 国際社会は、その実力の行使が、単なるイベントではなく、実際の他国との紛争の場面で行われることがないよう、注視していく必要があるだろう。

[執筆者]
小原凡司
1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。東京財団研究員

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中