変化の風に揺れる強権国家シンガポール
建国の父リー・クアンユー死去から半年、自由で成熟した社会を求める声が高まっている
厳しい規制にNO 性的少数者への理解を深めるイベント参加者も年々増えている Edgar Su-REUTERS
マレーシアから独立した約50年前、シンガポールは小さな漁業の島だった。天然資源に乏しく、マラリアの流行や貧困に苦しめられ、民族間の緊張があり、問題ばかりが山積していた。
それが今や、世界有数の豊かな国だ。資産総額100万ドル以上の富豪が総人口に占める割合は、カタールとスイスに次ぎ世界第3位。治安の良さや街の清潔さ、ビジネスのしやすさでも世界トップクラスに位置する。
ではなぜ、多くのシンガポール人は自分の国に不満を抱いているのだろう。「建国の父」リー・クアンユー元首相が3月に死去して以来、国民、特に若い層では、強権政治と規制によって縛られ、守られてきたこの国に変化が必要だと考える人が増えているようだ。
これを受けて、政府も一部の規制を緩和し始めている。
国民生活は多くの厳しい規則で縛られている。公共の場所でゴミを捨てれば、初犯でも罰金は最高1000シンガポールドル(約8万5000円)だ。
チューインガムの販売が禁止されているのは有名な話で、違反すれば罰金は最高2000シンガポールドル(約17万円)。もっとも、ガムの話だけを取り上げてこの国を論じることにシンガポール人自身は違和感を感じており、規制緩和を求める声は聞かれない。
シンガポールは近年、こうした厳しい刑法の一部を改訂しつつある。むち打ち刑の執行はかなり減ったし、12年には麻薬密輸で有罪の場合は必ず死刑とする条文が廃止された。
報道の自由や人権の分野でも問題は多い。
報道機関は免許制で、道徳や安全保障、公益や民族間の調和の観点から好ましくないと思われるテーマについて報道することは禁じられている(ただし規制されるテーマが明文化されているわけではない)。
規制に挑戦する動きも出てきた。リー元首相の死の直後、16歳のブロガーの少年が「リー・クアンユーがやっと死んだ」と題した元首相を非難する動画をネットで公開。別のブロガーは教会のスキャンダルになぞらえる形で政府批判を行った。
総選挙の結果に注目
だが2人とも、リー元首相やその息子であるリー・シェンロン首相を中傷したとして有罪となった。こうした締め付けに対し国民からは、シンガポールは挑発的な批判も受け入れられるくらいに成熟した国家になるべきだとの議論が湧き起こった。