最新記事

米中関係

まれに見る「不仲」に終わった米中首脳会談【習近平 in アメリカ③】

2015年9月28日(月)17時00分
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 たしかに南シナ海の島嶼に関しては、中国は1992年に領海法を制定し、いわゆる「中国の赤い舌」と呼ばれる島嶼を、すべて中華人民共和国の領土領海と宣言した。国際法によれば国家の法的な決議機関で決議し、そのときに他国から撤廃を求める提訴を受けていなければ、それで合法的となるようだ(1931年のクリッパートン事件判例による)。

 我が国の尖閣諸島の場合も1895年の閣議決定により合法的に日本国のものとなっている。

 にもかかわらず、1992年の中国の領海法では、その尖閣諸島を含めた南シナ海の東沙諸島、南沙諸島、西沙諸島などの島嶼を全て「中国の領土」として全人代(中国の立法機関)で決議した。

 日本はこのとき猛烈に反対しなければならなかったはずだ。提訴すべきなのである。

 しかし口頭で遺憾の意を駐日本国の中国大使に伝え、国会内で多少の質疑があっただけで、それ以上のことをしていない。
中国が領海法を制定したのは、1991年12月に敵対していたソ連が崩壊したからだ。それまでは中ソ対立があったので、米国や日本などと国交を正常化しソ連に対して「俺には米国や日本がいるんだぞ」と見せつけていた。そのソ連が崩壊したのなら、もう怖いものはない。日本も米国も必要なくなった。

 特に米国は1950年に起きた朝鮮戦争によって、東アジア諸国が赤化(共産党化)するのを恐れて、突如、日本を極東の基地として日米安保条約を結ぼうとし、またフィリピンとも1951年に相互防衛協定を結んでいたのだが、ソ連の崩壊により東南アジア一帯の赤化の可能性が低くなり冷戦構造もなくなったと安心した米国は、フィリピンに駐在させていた米軍を撤退させてしまったのである。

 中国がそのスキをついて領海法を制定したというのに、アメリカもまた、その時はいかなる反応もしていない。
日米ともに外交戦略に失敗しているのだ。

 よもや、中国が日本を凌駕するほどの経済成長を遂げるとは思わなかったのだろう。

 甘い――!

 この点に日米が注目しない限り、南シナ海問題に関しては「永久に」平行線をたどるだろう。

アラスカ沖に現れた中国軍艦を習近平訪米と結びつけた日本のメディア

 9月25日、日本の某テレビ局は、今年9月2日に中国海軍の艦船5隻がアラスカ沖に現れたことを、習近平訪米と結び付けて「米国への威嚇」といったトーンで報道した。これは少々筋違いで強引な論法ではないだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中