最新記事

中国 

チベット化する香港が漢民族支配を脱する日

2015年7月2日(木)17時28分
楊海英(本誌コラムニスト)

 希望も少しはあった。仮に香港人の「高度の自治」が長期間にわたって持続できるならば、諸民族も同様の権利を求めようと内心考えていた。漢民族同士で高度の自治を享受しながら、ほかの諸民族には実権のない「区域自治」しか下賜しないのはあからさまな差別だからだ。チベット人の政教一致の最高指導者ダライ・ラマ14世法王も香港の「高度の自治」を注視し続けたし、モンゴル人やウイグル人の知識人たちもそうした希望を持っていた。

 結局、共産党は自民族の香港人をチベット人やモンゴル人以上に「優遇」しなかった。6月中旬、香港の立法会(議会)は中国政府が支持する特別行政区長官選挙の改革案を否決した。中国寄りの議員は多くが退席し、賛成票を投じたのはわずか8人。反対票を投じたのは民主派議員27人全員を含む28人。法案可決には定数70の議会の3分の2以上の賛成が必要なため、成立しなかった。

 法案は17年の行政長官選挙で香港市民に1人1票の直接選挙権を与える内容だったが、親中派しか立候補できない仕組みで、野党議員や民主派の活動家らは「偽の選挙だ」と反発してきた。昨年秋に起きた大規模な「雨傘革命」と称する抗議運動も「50年間変わらない高度の自治」はすべて形骸化してきた事実を示している。

 英国情緒が残る街を占拠した青年たちは今、「香港民族」という概念を打ち出している。大陸の漢民族とは文化も精神も異なるので、当然、自決権を獲得する権利があるとの思想だ。広東語と北京語はイタリア語とフランス語以上に違う、という言語学者の知見に即して考えるならば、香港民族の闘争は今後も続くだろう。

[2015年7月 7日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

2月完全失業率は2.4%に改善、有効求人倍率1.2

ワールド

豪3月住宅価格は過去最高、4年ぶり利下げ受け=コア

ビジネス

アーム設計のデータセンター用CPU、年末にシェア5

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中