遅きに失した遺跡保護の叫び
昨年1月に提出された世界遺産の保全状況に関する報告書で、シリア文化省はパルミラ遺跡と周辺地域の内戦による被害状況を説明している。それによると、ベル神殿の近くにあるヤシの木立の周辺は特に損傷が激しく、神殿の壁や玄関屋根の柱に砲弾や銃弾の跡が多数確認された。一部の柱が倒壊し、窓や石に焼け跡もあった。
ただし、報告書はシリア政府の報告に基づいている。ユネスコの専門家は11年3月以降、現地に近づくことができず、被害の全貌は明らかになっていない。しかしユネスコは、衛星写真などの資料から、シリア政府が現在もパルミラ遺跡を軍事作戦の拠点に使っていると考えている。
遺跡を破壊するのは、砲弾や戦車だけではない。戦闘の影響で、考古学的に貴重な遺物が、いわば略奪し放題なのだ。昨年の保全状況報告書でも、パルミラ遺跡の墓地の谷やディオクレティアヌス城砦で、重機まで使った大掛かりな略奪が横行していると指摘されている。
ユネスコは先週、ISISがパルミラを制圧したことを受けてビデオで声
明を発表。イリナ・ボコバ事務局長は、パルミラ遺跡の破壊は「戦争犯罪というだけでなく......人類にとって甚大な喪失だ」と訴え、モスルやニムルドで行われた略奪にも言及し、パルミラの事態の進展を「極めて憂慮している」と述べた。
一方でボコバは、シリア政府軍に対して以前から、遺跡周辺の軍事作戦を中止するように要請していたことにも触れた。「残念ながらこの2年間、(遺跡は)打撃を受けてきた。パルミラは軍事キャンプと化している」
ISISが古代文明の象徴を喜々として破壊していることは確かだ。しかし、彼らがパルミラで人類の歴史の足跡をまた1つ消し去るとしても、シリアの内戦が4年前に始めた破壊行為を完了させるにすぎない。
From GlobalPost.com特約
[2015年6月 2日号掲載]