焦点:「中国脅威論」高まるフィリピン、基地増強に世論後押し
<新たな道路>
マングローブが密生する湾を本格的な海軍基地にすることは、南シナ海の大半を自国領と主張する中国との緊張を一段とエスカレートさせる可能性がある。同海域ではフィリピンのほか、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、台湾も領有権を主張している。
ロイターの記者がウルガン湾を今週訪れた時、現地では林を切り開き、オイスター湾に続く道路の建設が進められていた。道路が完成しなければ、湾には船舶でしか行くことができない。
作業員たちの話では、全長12キロの2車線道路が数カ月以内に完成する予定だという。
道路建設が始まったのは2013年10月。当時、住民たちはロイターに対し、海軍基地ができれば周囲に飲み屋や風俗店が乱立し、漁業も制限されるとの懸念をあらわにしていた。
マニラの北西に位置するスービック湾にはかつて、1992年に閉鎖されるまで米海軍の大規模施設があった。今も一部のフィリピン人にとって憎悪の対象となっているのは、同湾近郊オロンガポの売春宿であり、現地の非政府組織(NGO)によると500軒ほどもあるという。
環境活動家はオイスター湾に続く道路の建設に反対している。しかし、そこで暮らす住民は中国の活動に懸念を募らせている。
前出のビラリン氏によると、住民の大半は、海軍増強計画を支持しているという。住民の1人は、米海軍の存在はフィリピンを守るために必要だと語った。
また、別の現地有力者カルロス・キランテ氏は、以前は基地の拡大には反対していたが、今は中国の人工島建設をめぐって緊張が高まっているのと感じると指摘。「もし国の安全につながるなら、誰が海軍基地の建設に反対するというのか。愛国心は個人の利益に勝るべきだ」と力を込めた。
(原文:Manuel Mogato、翻訳:宮井伸明、編集:伊藤典子)