最新記事

チベット

ダライ・ラマ訪問という外交リスク

ビザ発給を拒否してツケを払う羽目になった南アを始め、意外な国もダライ・ラマを敬遠し始めた

2014年10月6日(月)12時04分
ティモシー・マグラス

招かれざる客 後継選びを政治利用すべきでないと言うダライ・ラマ Laura Lezza/Getty Images

 ダライ・ラマ14世の穏やかな表情を見たら、誰もが心に安らぎを感じるだろう。でも、もしあなたが一国の大統領や首相、あるいは外務大臣だったら、彼の顔は頭痛のタネでしかない。

 9月初め、南アフリカ政府はチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマへのビザの発給を拒否した。ダライ・ラマは、ケープタウンで10月13日から開催される「ノーベル平和賞受賞者世界サミット」に出席する予定だった。南アがビザを出さなかったのは、同国が経済的なつながりを強めている中国の顔色をうかがったためといわれる。中国政府にとって、チベット自治区独立運動のシンボルのような存在のダライ・ラマは、目の上のたんこぶだ。

 しかしビザ発給拒否のツケは高かった。他のサミット参加予定者たちが抗議のために不参加を次々と表明し、サミットは中止に追い込まれた。

 とはいえ、南アが取った行動は世界的な大ニュースとはいえない。中国が経済大国として台頭して以来、ダライ・ラマは世界各地で友人を失い始めている。彼は、かつてはみんながパーティーに呼びたいような人物だった。だが今や「招かれざる客」になってしまった。

 各国の政府はダライ・ラマとの接触を極力避けようとしている。中国政府から直接プレッシャーをかけられる場合もあれば、自主規制しているケースもある。

 具体的にどんな国が中国に「敬意」を表しているかというと、南アは今回を含めて、この5年間で3度、ダライ・ラマの入国を拒否。中国とより親しい関係にあるロシアも当然、何度も拒んでいる。

寛容の国ノルウェーまで

 意外な国も中国に怯えている。例えばイギリス。アジアの国から指図されるなんて、英政府のプライドが許さないと思うだろうが、そんな自尊心も中国の前では忘れてしまうらしい。

 12年5月、デービッド・キャメロン首相は中国政府からの警告に反して、ダライ・ラマと会談。怒った中国は要人の訪英を中止するなどして、関係は冷え込んだ。英政府は1年かけて、ようやく中国をなだめることができた。ご機嫌取りに奔走した1人、ウィリアム・ヘイグ外相はこう言った。英政府は「チベットの問題は慎重に扱うべきだということを重々承知している。(今後は)中国の懸念に敬意を払いながら適切に対処する」。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中