ヨーロッパを苦しめる日本型デフレの悪夢
大恐慌期のアメリカや90年代の日本が経験した物価下落の連鎖が欧州発の世界不況を起こす?
民主主義も危うい? 9月初めのNATO首脳会議に出席した(左から)イタリア、ドイツ、フランスの各首脳 Stefan Rousseau-WPA Pool/Getty Images
ウクライナ東部へのロシア軍の侵入に始まり、自国から中東へ向かったイスラム教スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の支持者が帰国してテロ事件を起こすリスクまで、現在のヨーロッパ諸国は多くの脅威に直面している。
だが経済政策担当者を苦しめているのは、デフレという名の別の悪夢だ。ポーランドのシュチュレク財務相は9月初め、ブリュッセルの会合でこう警告した。
「ヨーロッパはデフレの瀬戸際にある。われわれヨーロッパ人は、75年前に不況とデフレが全体主義体制に権力を与え、世界大戦によって大陸を破壊したことを忘れてはならない」
ブルームバーグが世界の投資家を対象に実施した調査によると、ユーロ圏のデフレを懸念する回答は74%に上った。8月のイタリアの消費者物価は過去半世紀で初の下落。スペイン、ポルトガル、ギリシャの物価も下がった。フランスの物価上昇は0.4%にとどまり、ドイツも0.8%。いずれも欧州中央銀行(ECB)が掲げる2%のインフレ目標に遠く及ばない。
このままではヨーロッパは長期の景気低迷に陥り、09年のユーロ危機以上に深刻な事態になると予測するエコノミストもいる。既にフランス経済はゼロ成長に落ち込み、イタリアは景気後退入り。ドイツも第2四半期はマイナス成長を記録した。
「ヨーロッパ経済は異常な状態にある」と、フランスのバルス首相は言った。「弱い成長と深刻なデフレの脅威だ」
ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマンはニューヨーク・タイムズのコラムで、ヨーロッパ経済は1930年代より悪いと指摘する。「民主主義と経済的繁栄を土台に平和を築くというヨーロッパの試みは大きな試練を迎えた。平和は今も健在だが、繁栄に陰りが見え、厳密に言えば民主主義も危うい」
ドイツやイギリス、フランス、イタリアなどでは、近年の選挙でEUからの離脱やEU当局の権限縮小を訴える右派政党が勢力を伸ばした。これらの政党に共通するのは反移民の姿勢だ。一部の党は人種差別と排外主義を非難されている。