最新記事

航空

マレーシア航空が今度はシリア上空を飛んでいた

ウクライナでの撃墜直後に内戦のシリア上空を飛行した航空会社の解せない安全意識

2014年7月23日(水)17時20分
アルベルト・リバ

飛ばないリスクも 燃料節約のためできるだけ最短距離を飛びたい事情も Samsul Said-Reuters

 乗客・乗員298人を乗せたマレーシア航空17便が、ウクライナ東部で地対空ミサイルによって撃墜されたのは先週の17日。その後他のすべての航空会社と同様に、マレーシア航空もウクライナ上空の飛行は回避している。

 ウクライナ上空はアジア各地の拠点空港とヨーロッパを結ぶ最短ルートだが、各航空会社は安全確保のために回避せざるを得ないのが現状だ。

 しかしウクライナ東部と同様、迂回ルートにも危険が潜んでいる可能性はある。マレーシア航空は事故からわずか3日後の20日、クアラルンプール発ロンドン行きの4便を、内戦が続くシリア上空に飛行させ、再び批判にさらされている。

 民間航空機の飛行ルートを追跡するウェブサイト「フライトレーダー24」によれば、4便(エアバスA380型機)は南側のヨルダンからシリア上空に入り、北西方向にシリアを横切って地中海に抜けていた。

 これに対してマレーシア航空は声明を出し、飛行ルートはどんな規制にも違反していないと反論している。

「マレーシア航空4便の飛行計画は、国際民間航空機関(ICAO)が承認した飛行ルートと合致している。シリア民間航空局の航空情報によれば、シリア上空は飛行禁止の対象にはなっていない。4便は常時、ICAOが承認した空域を飛行していた。マレーシア航空は、乗客と乗員の安全を最優先している」と、声明は述べている。

 建前上、マレーシア航空は正しい。ICAOは、民間航空会社に対してシリア上空の飛行を禁止していない。しかしICAOは、昨年3月に出した文書でシリア上空の飛行が極めて危険だと警告している。

「ダマスカス飛行情報区(シリア上空)を通過する民間航空機が巻き込まれる事件が最近発生している」と、ICAOのレイモンド・ベンジャミン事務局長はこの文書で警告している。「民間航空機が予期せぬ砲弾やミサイル攻撃のすぐ近くを飛行していたケースもあった」

 他社との競争に晒される航空会社が、飛行時間の短縮や燃料コストの節約のために、紛争地域の上空と知りつつ飛行することは、よくあることだという。特にマレーシア航空は、今年3月にクアラルンプールから北京に向かっていた370便が南シナ海上空で消息を絶って行方不明になる事故が起こって以来、乗客が激減して経営が悪化していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米関税、欧州にディスインフレ効果もたらす可能性=E

ワールド

米、対中関税引き下げ検討か 半減案との情報 財務長

ワールド

OPECプラス8カ国、6月も生産拡大提案へ 実現な

ビジネス

米ボーイング、1-3月期の損失予想ほど膨らまず 航
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    ウクライナ停戦交渉で欧州諸国が「譲れぬ一線」をア…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中