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「シシ新大統領」は救世主になれるか

2014年5月26日(月)12時03分
トム・デール

 メディアではその理由をめぐる臆測が飛び交った。軍内部の支持が流動的であること。サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)からの経済援助が枯渇しそうな状況でエジプト大統領になることの難しさ......。

 モルシとムバラクが権力の座を追われたのは、経済の低迷と物価上昇が原因だった。シシがエジプトの経済的問題を承知していることは周知の事実だが、リークで明らかになった具体的な(かつ不評を買いそうな)処方箋のほうはあまり知られていない。

 まず巨額の赤字を黒字に転換して政府債務を返済することで通貨を防衛。産業に投資して雇用を創出し、10%超のインフレに所得の伸びが追い付くようにする──そのために国民は従来以上に働き、多額の税金を払い、困難に耐えることを要求されるだろう。

補助金廃止なら市民の反発は必至

 リークされた発言の中で、シシは自分を大統領に選んだらどんな苦難が待ち受けているか、国民に呼び掛けるような口調で語っている。

「私が車ではなく歩けと言ったら耐えられるか。毎朝5時に起床しろと言ったら? 食糧が不足したら? エアコンがなくなったら? 補助金を一気に廃止したら? それでも諸君は耐えられるか」

 エジプトでは、パンやガソリンや電力などの生活必需品の価格は政府の補助金のおかげで安く抑えられている。パンへの補助金を貧困層に振り向けて無駄をなくす取り組みが進められているものの、エネルギー補助金だけで政府支出の20%以上を占める。

 シシが補助金を一気に廃止すれば、貧困層も大打撃を受ける。対象を絞った改革でも政府の手に余り、中間層の反発を招く恐れがある半面、予算を均衡させるには不十分だろう。77年にアンワル・サダト大統領がパン補助金を廃止しようとして暴動を招いた話は有名だ。

 別の録音では、シシは国全体のために緊縮財政に耐えてきた(と彼が考える)国々を例に引いて、国民に多大な犠牲を払うよう説いている。

「ドイツは緊縮政策で国民の給与を50%カットし、国民もそれを受け入れた。独立を果たした南スーダンも同様の措置を取ったが、国民は不満を言わなかった。現在のエジプトで、エネルギー補助に1070億エジプトポンド、日々のパンのために170億エジプトポンドを国が払うのは不可能だ」と、彼は言った。

 この発言については、実際はもっと長い文脈から「切り取られた」という批判もある。インタビュー録音を入手したジャーナリストらは、公表したい部分だけを抜粋し、残りを公表しなかった。

 シシをもっと「共感できる人」に見せるような部分が省略された可能性は十分に考えられる。反対派は(多くの公平なアナリストもそうだが)、経済に対する国民の不満がシシの最大の弱点だと確信しているからだ。

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