環境破壊に突き進むオーストラリア
政府の責任は不問に?
オーストラリアは99年、開発が環境に与える影響を査定するため、環境・生物多様性保護法(EPBC)を制定した。画期的な法律だったが、効力は薄れているとフルトンは嘆く。
「開発を促進するという意味において、政府がEPBCに加えている変更は深刻だ。EPBCに基づき、政府は環境問題に関する決定権を保有していた。だが現政権はその決定権をほかの機関に移し、環境規制の調整や管理から手を引いている」
例えば沖合いでの石油・天然ガスなどの資源探査は、海洋石油安全環境管理庁が単独で認可できることになった。この機関は環境規制も担当しているが、「地域住民の意見を聞く必要もないから、管理庁は探査申請を片っ端から承認している」と、フルトンは指摘する。
「環境への脅威を10段階で判定するなら、グレートバリアリーフへの土砂廃棄は1か2くらいだが、海底油田の掘削は最悪だ。1度でも石油が漏れたら、あそこのサンゴ礁は壊滅しかねない。メキシコ湾の原油流出事故で見たとおりだ」
環境相の法的責任を免除する動きもある。政府や大臣の判断ミスで環境破壊が起きても、責任を問えなくなるかもしれないのだ。グレートバリアリーフへの土砂廃棄以上に、「こうした政策変更の影響はずっと深刻だ」とフルトンは言う。
この件に関して首相府や環境省に接触を試みたが、何ら回答は得られなかった。しかし鉱業協会のピアソンは、官僚的な規制は業界や地域社会を苦しめるだけで、環境や世界遺産の保護には役立っていないと断言する。「アボット政権が言うように、環境基準については妥協せず、同時に不必要な規制を減らすことは可能だ」とピアソンは主張する。
「私たちは科学的な調査を無視するつもりはない。むしろ大歓迎だ。持続可能な開発、健全な科学、透明性と詳細なモニタリング、明確な手続き、地域社会の積極的な関与といったコンセプトに基づいて資源探査の計画が承認されることを望んでいる。クイーンズランド州の資源開発でも、できるだけ人々の意見を聞きたい」
鉱業協会の会員企業は、持続可能な開発に関して国連の求める「効果的で透明性の高い関与と意見交換、第三者による評価報告」の枠組みを受け入れていると、ピアソンは言う。