環境破壊に突き進むオーストラリア
「最悪のタイミングだ」とローランスは言う。オーストラリアには、今すぐ保護が必要な生態系がいくつもある。例えば絶滅危惧種のフクロモモンガダマシがすむビクトリア州のユーカリ林は、伐採や山火事で危機に瀕している。
「私の故郷のアメリカ西部でも、保守派は『森を閉鎖している』と言って環境保護派を非難してきた」とローランスは言う。「これは保守派の常套句だ。彼らは昔から、手を出したくても出せない地域を『閉鎖されている』と表現してきた」
サンゴ礁研究の権威でオーストラリア国立大学で教えるクリス・フルトンは、アボット政権に速やかな発想の転換を求めている。
「現政権にとって自然は人間に奉仕するべきものであり、人間が搾取し利用するべきもの。彼らに言わせれば、木材や食料や石炭を供給できない自然に価値はない」とフルトンは指摘する。「それは19世紀、いや18世紀の自然観だ。人間が欲しがるものを提供し続けていたら、自然は崩壊してしまう」
早くから生態系保護の重要性を説いてきたアメリカのトーマス・ラブジョイは、今年11月にシドニーで世界国立公園会議が開かれる前に、オーストラリア政府が林業政策を「新たな視点」から見直すことを期待しているという。
ラブジョイの見るところ、アボット政権は「目先の経済効果」しか考えていない。「地球温暖化にも生物学的多様性にも、もっと心を砕かなくてはいけない」とラブジョイは言う。
環境を取り巻く状況が悪化したのは、政治の右傾化のせいだとローランスは考える。連邦政府のみならず、主な州政府でも与党は保守政党だ。
「この国で多くの生態系が危機に瀕していることを示す科学的根拠はいくらでもある」とローランスは言う。「だがアボットはまるで原理主義者のようだ。『この連中は今まで私に投票しなかったし、これからもしないだろう』という計算をして、自分に票を投じそうにない有権者は切り捨ててしまう」