最新記事

韓国社会

競争と伝統で板挟み「自殺大国」韓国の憂鬱

OECD加盟国で自殺率が最も高い韓国。芸能人も政治家も一般市民もなぜ自ら死を選ぶのか

2014年3月26日(水)15時48分
ジェフリー・ケイン

いのちの電話 いのちの電話 漢江の麻浦大橋の欄干にある自殺SOSホットライン Lee Jae Won-Reuters

 韓国では気がめいるような自殺のニュースが多い。体面を汚された芸能人や政治家が命を絶ったとか、大学受験に失敗した高校生が橋の上から身投げしたとか、老親が子供に迷惑をかけまいとして自死を選んだとか。

 韓国人は仕事でも勉強でも恋愛でも成功し、家族の世話もしなければという大きなプレッシャーを感じながら生きている。こうした心の重荷が自殺率の高さにつながっているようだ。自殺率はOECD(経済協力開発機構)加盟国で最も高く、1日に約39人が自殺する。12年の死因で、自殺は4番目に多かった。

 悲劇が多過ぎて感覚が麻痺しそうなところだが、それでも今月初めの事件は国民に衝撃を与えた。テレビのリアリティー番組に出演していた29歳の女性が、収録現場の家のバスルームで自殺。ヘアドライヤーのコードで首をつり、遺書を残していた。

 放送局SBSには抗議が殺到。彼女が出演していた番組『チャク(パートナーの意)』は、若い男女約10人が一緒に暮らしてカップル成立を目指すという内容だ。今回の事件を受けて、番組は出演者たちに恋人を見つけることを強制し、心身共に傷つけていると批判された。思いを寄せる相手に振られた出演者には、外で食事を取らせるなど、ペナルティーを科していた。

 自殺した女性の友人らによると、惨めな負け犬のような人物として描かれるのではないかと、本人は心配していたようだ。SBSは謝罪し、番組の打ち切りを決めた。

 韓国では先進国の仲間入りをした過去20年の間に、自殺件数が3倍以上増えた(この2年ほどは漸減してきたが)。

 米ペンシルベニア州立大学ブランディワイン校のベン・パク准教授(社会学)によると、急激な経済成長を遂げ、社会も変化した韓国では、人々の中に精神的な葛藤「文化的アンビバレンス」が生じているという。

 言い換えるなら、新旧文化の対立だ。特に若者たちは、現代の経済的個人主義と儒教の伝統の間で板挟みになる。彼らは学業でも仕事でも厳しい競争にさらされながら、その一方で、家族は互いの面倒を見るべきという周りの期待に押しつぶされそうになっている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

任天堂、「スイッチ2」を6月5日に発売 本体価格4

ビジネス

米ADP民間雇用、3月15.5万人増に加速 不確実

ワールド

脅迫で判事を警察保護下に、ルペン氏有罪裁判 大統領

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中