和平会議直前のシリアに大量虐殺疑惑
アサド政権への風当たりが弱まり和平会議が開催されようとする中で発覚したシリア政府当局による最悪の戦争犯罪疑惑
戦争犯罪 眼隠しと手錠をされた反政府勢力の拘留者たち(2013年5月) Sana-Reuters
内戦状態が続くシリアに再び平穏が訪れるのはいつになるのか。内戦終結を目指し、スイスのジュネーブでは22日から国際和平会議が開催される予定だが、スタート前からすでに大混乱の様相を呈している。
まず問題となったのは、イランを会議に招待すると発表しておきながら、直前になって撤回したこと。さらに21日にはシリア政府代表団を乗せた飛行機が、経由地のギリシャ・アテネで給油を拒否されて足止めされるというトラブルに見舞われた。
だが最も深刻な問題は、シリアのバシャル・アサド政権がこれまでに1万人以上の拘留者を拷問し、大規模な殺害を行ってきたとする報告書が発表されたことだ。
写真を含む多くの証拠を報告書で公開したのは、シエラレオネやユーゴスラビアでの戦争犯罪を担当した経験を持つ3人の弁護士。報告書は「密かにシリア反体制派に通じ、後に政府から離反して国から脱出した憲兵」の証言に基づいている。彼は国を離れるとき、政府側が撮影した写真などの膨大な証拠を持ち出したという。
報告書によれば、拘留者の遺体の写真は1万1000人分が存在するという。3人の弁護士は「シリア政府の関係者によって拘留者に対する組織的な拷問や殺害が行われた」と示す十分な証拠があると主張。シリア政府の戦争犯罪や人道に対する罪を十分に裏付けているとする。
報告書は英ガーディアン紙や米CNNテレビによって報じられ、カタール政府も信憑性を認めている。ただ、たとえ報告書の内容が真実でも、シリア政府の当局者が国際刑事裁判所(ICC)によって戦争犯罪に問われる可能性は低い。シリアはICCに加盟していないからだ。非加盟国であっても国連安保理の権限によってICCで取り扱うことは可能だが、シリア寄りで安保理の拒否権を持つロシアがそれを許すとは考えにくい。
とはいえ今回公表されたおぞましい証拠が、国際社会がシリアを見る目やジュネーブでの和平会議の議論に影響を及ぼすのは間違いない。