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共産党にくすぶる冷戦願望

2013年12月3日(火)17時34分
J・マイケル・コール(ジャーナリスト)

米外交のソフト面が怖い

 米中関係改善の証しであるはずの過去1年間の軍事交流までが、信頼醸成措置ではなく「中国解体」の陰謀の一環と見なされている。陰謀説の底流を成すのは、積極関与というアメリカの対中戦略のソフト面のほうが軍備というハード面以上に危険、という考え方だ。

 映像は中国の「開放政策」批判ともいえるもので、欧米との接触を戒めるのが制作側の狙いの1つらしい。実際にソ連など閉鎖的な社会が崩壊したのは主として米主導の世界的陰謀のせいだと主張している。

 さらに映像は次のように指摘する。ソ連崩壊は冷戦終結の始まりだったのではなく、実際は冷戦終結がソ連崩壊を招いた。ソ連帝国の存続には冷戦と冷戦が生んだ閉鎖的で抑圧的で、軍事的で被害妄想的な体制が不可欠だった。その体制の土台が欧米との接触で徐々に弱体化し、政府が世論を抑え切れなくなったとき、帝国全体が崩壊した。その轍(てつ)を踏まないよう中国共産党は中国社会の隅々まで掌握し続けなければならない......。

 これが党内の主導権争いの一端ではなく党の公式な結論だとしたら、方針転換の波紋は広範囲に及ぶだろう。アメリカをはじめ欧米の主要国との関係はもとより、台湾などとの関係にも影響する可能性がある。

 台湾は中国の手本といわれることが多く、両国の交流拡大が中国の民主化に拍車を掛けると期待されている。しかし中国が台湾の民主主義とオープンな社会を欧米式で中国を弱体化させる陰謀の一環と見なし、リベラルな生活を破壊すべきだと結論する可能性もある(既に破壊し始めているという指摘もある)。

 中国は最近まで、アメリカがいつまでも冷戦的思考に縛られていることに何より不満を訴えていた。封じ込めはよくない、アメリカが中国に門戸を開きさえすれば米中関係は発展するだろう、と。

 その中国が今度は一転して、アメリカとの交流は中国をむしばみ中国の存在自体を脅かすと警鐘を鳴らしている。親米か反米か。相いれない2つの道のどちらを中国は選ぶのだろうか。

From thediplomat.com

[2013年11月19日号掲載]

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