最新記事

米犯罪

囚人はなぜ簡単に自殺できるのか

米オハイオ州の女性監禁事件の犯人が首を吊った。厳格な監視下にあるはずの刑務所で囚人の自殺が多いのはなぜか

2013年9月5日(木)15時12分
ジャスティン・ピーターズ

凶悪犯 誘拐、レイプ、殺人などの罪を償う機会は失われた Reuters

 米オハイオ州で約10年にわたり女性3人を監禁していた凶悪犯アリエル・カストロ(53)が3日夜、刑務所内で首を吊って自殺した。終身刑と禁錮1000年の有罪判決を受けて収監されたのは、わずか1カ月前のことだ。

 カストロは保護拘置下に置かれ、30分ごとに看守が見回りにきていた。にも関わらず、誰にも気付かれずに自殺を遂げた。「保護拘置下にありながら、どうやって首吊り自殺を図ることができたのか」──今回の一件に限らず、刑務所の管理体制としてよく指摘される問題だ。看守たちは受刑者の自殺を阻止しようと対策に苦心しているが、いまだ有効な手だてが見つかっていない。

 米司法統計局が最近発表した刑務所内の死亡率に関するデータによれば、2000年から2011年における地方の刑務所での死亡原因は自殺が突出して多かった。同期間における州刑務所での自殺率は地方刑務所に比べれば低かったが、それでも死亡原因として自殺は(受刑者同士などによる)殺人の3倍だった。

 自殺の大半は首つりによるものだ。絞首刑は首の骨が折れて即死するが、囚人が地面に足をつけたまま首を吊る自殺は、窒息死するまでにかなりの時間を要する。そのため理論的には、看守が途中で気付けば、自殺行為を止めることができるはずだ。しかしアメリカの刑務所は囚人の数が多過ぎる割に看守の人手が不足しており、多くの自殺が見過ごされている。

GEが監視システムを開発?

 厳重な監視で自殺のリスクを抑えることはできるが、そのリスクを完全になくすことはできない。自殺の監視とは、囚人を特別な部屋に入れて、時間を決めず不定期に様子を見に行くこと。部屋には監視カメラもつけられるが、死角ができることもあるし、監視映像を常にモニタリングできるとも限らない。自殺を図る可能性が極めて高い囚人に対しては、看守を24時間張りつけるという手もあるが、それをずっと続ける人手も資金も不足している。

 テクノロジーの力を借りる手もある。例えば、ゼネラル・エレクトリック(GE)はドップラー効果を利用した警報システムを開発中だ。このシステムは監房に設置され、囚人の心臓音の異変・停止、呼吸困難などの異常を感知すると、看守に知らせる仕組みだという。

 このドップラーシステムが本当に有効かどうかは分からない(GEの試作品のテストはうまくいったらしいが)。ただ言えるのは、こうしたテクノロジーによる解決法は大いに模索してみる価値があるということ。塀の中での自殺を止めたいと願う人たちは、わらにもすがる思いなのだから。

© 2013, Slate

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中