最新記事

亡命

スノーデンはなぜたらい回しにされたのか

米政府の情報収集活動を暴露した元CIA職員を、他国が受け入れてもトクにならない理由

2013年7月16日(火)12時42分
エリック・ポズナー

支持者も頼れない ベルリンではスノーデン受け入れを求めるデモも起きたが Tobias Schwarz-Reuters

 エドワード・スノーデンはどこの国にでも行くつもりでいる。だが、先週末にベネズエラのマドゥロ大統領がスノーデンの亡命を受け入れると表明するまで、そんな国は皆無だった。

 米国家安全保障局(NSA)の監視活動を暴露した元CIA(米中央情報局)職員の亡命申請は、ドイツやスペイン、ノルウェーに拒否され、ロシアや中国にも受け入れられなかった。彼がそのくらい最悪の亡命志願者だからだ。

 迫害を受けたか、受ける恐れのある外国人を亡命者や難民として保護する法律はどの国にもある。だがこの法律が適用されるのは通常、その人物が受け入れてほしい国に既にいる場合だ。例えば中国政府に迫害されているチベット人が、北京のアメリカ大使館に電話して「亡命したい」と言っても通らない。

 世界各地の難民キャンプには1500万人以上が暮らしている。もしそこからフランスやイタリアに亡命できるなら、申請者は無数に膨れ上がってしまう。

 しかもスノーデンの亡命理由は、どの国でもあまり重要とは見なされない。亡命申請者は特定の民族や人種、宗教、政治組織に属しているために迫害の対象になっていることを証明しなくてはならない。典型的な例としては政府の抑圧を逃れたい反体制派や、宗教対立などによって苦難を経験している人たちだ。

 スノーデンは「反体制派」とは呼べても、米政府が彼を拘束したい理由は思想的なものではない。守秘義務のある情報を暴露して法を犯したことだ。

 こうした法律はすべての国にある。自国民がやれば犯罪と見なされる行為に走ったアメリカ人を、わざわざ亡命者として受け入れる国はまずないだろう。
いっそアメリカに戻る?

 もっとも、国家が居住権や市民権などの保護を与えるのは自由だ。通常の法の下でスノーデンに亡命の資格がないとしても、その気があれば国家は彼に庇護を与えることもできた。なぜどの国もそうしなかったか。

 まず、スノーデンを受け入れても得るものがない。彼は機密はすべて暴露したか、残っていてもすぐには明かさないだろう。普通のスパイは情報を亡命の交渉材料に使うが、スノーデンは全世界に公開してくれるので、わざわざ亡命させる必要もない。

 しかもスノーデンは、自国にいてほしいタイプではない。国家機密を盗んで暴露しかねない人物に市民権や永住権を与える国はない。

 こうなると、スノーデンには選択肢がほとんどない。これまで享受してきた自由と引き換えに反米左派のベネズエラか、亡命容認でベネズエラに追随したニカラグアに行くか。

 仮にそう決めたとしても、ロシアからベネズエラやニカラグアに飛ぶには、アメリカと犯罪人引き渡し条約を結んでいる国を経由しなければならないため、たどり着ける保証はない。

 スノーデンの支持者は、潔く帰国すべきだと考えている。アメリカに戻ればスパイ防止法などで起訴される可能性が高いが、彼に同情的な陪審や裁判官に当たる可能性もなくはない。アメリカには、政府に盾突いた人々を応援する伝統がある。そもそも「建国の父」たち自身が反体制派だったのだ。

 国民の行動を記録することで犯罪やテロを防ごうとする政府に守られて、安全だが窒息しそうな国民は、スノーデンやウィキリークスの創始者ジュリアン・アサンジのような人々を支持して「ミニ反乱」を起こす。だが、所詮体制を脅かすほどのことはない。スノーデンの犯罪に加担するほどの支持者はどこにもいないのだ。

[2013年7月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-中国、欧州EV関税支持国への投

ビジネス

中国10月製造業PMI、6カ月ぶりに50上回る 刺

ビジネス

再送-中国BYD、第3四半期は増収増益 売上高はテ

ビジネス

商船三井、通期の純利益予想を上方修正 営業益は小幅
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 2
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 5
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 6
    米供与戦車が「ロシア領内」で躍動...森に潜む敵に容…
  • 7
    娘は薬半錠で中毒死、パートナーは拳銃自殺──「フェ…
  • 8
    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…
  • 9
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」…
  • 10
    衆院選敗北、石破政権の「弱体化」が日本経済にとっ…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 6
    渡り鳥の渡り、実は無駄...? 長年の定説覆す新研究
  • 7
    北朝鮮を頼って韓国を怒らせたプーチンの大誤算
  • 8
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 9
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 8
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 9
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中