懲りないベルルスコーニの復活大作戦
驚きの人心掌握術で、スキャンダルも有罪判決もなんのその、あの手この手で票をかき集める元首相
勝算あり? ローマで開かれた支持集会で満面の笑みを浮かべるベルルスコーニ(1月25日). Max Rossi-Reuters
イタリアのシルビオ・ベルルスコーニ前首相は狙った有権者の心をつかむ名人だ。76歳のメディア王で3度首相を経験したベルルスコーニは、2月下旬の総選挙で首相への返り咲きを目指す。このところ遊説先で有権者受けを狙った発言を続けているが、どうやらそれが功を奏し始めているようだ。
1月27日、ナチスのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の犠牲者を追悼する式典で、ベルルスコーニはかつての独裁者ムソリーニを擁護した。ナチスドイツとの同盟は過ちだったとしながらも、「人種法は指導者として最悪の過ちだったが、ムソリーニはいいこともたくさんした」と、報道陣に語った。極右の票を取り込むことを狙った発言というのが大方の見方だ。
ムソリーニは1938年、ユダヤ人排斥の人種法を制定。43~45年にユダヤ人約1万人が国外に送られ、その多くがアウシュビッツで命を落とした。
ベルルスコーニの発言は追悼式典に参加していたユダヤ人の神経を逆なでした。首相候補の1人である中道左派・民主党のピエルルイジ・ベルサニ書記長も「ベルルスコーニはファシスト的な右派の票欲しさに式典を利用した」と批判した。
ベルルスコーニが次に目を付けたのはサッカーファンだった。彼らの票を取り込むべく、自身が名誉会長を務めるACミランに、サッカー界の問題児マリオ・バロテッリを移籍させるという行動に出た。
バロテッリの素行の悪さはベルルスコーニの比ではない。10年から英マンチェスター・シティでプレーし、イギリスのタブロイド紙に数々のネタを提供してきた。しかし昨年の欧州選手権ではイタリア代表チームで活躍、「スーパーマリオ」という異名と国民的人気を手に入れた。それでもバロテッリの帰還は、ベルルスコーニの対抗勢力からは票集めの反則技とみられている。何しろサッカーへの忠誠が第一というお国柄なのだ。
移籍金2000万ユーロ(約24億8000万円)の投資は、ACミランの成績アップには役立たないかもしれないが、ベルルスコーニの支持率アップにはほぼ間違いなく役立つだろう。調査会社SWGによれば、バロテッリの移籍話が出ただけで前首相の支持率は上昇した。あるイタリア紙の試算では、実際に試合に出るようになれば新たに40万票を獲得する可能性があり、1票の値段は約50ユーロになる。
「私は有権者に会いに行くが、彼はサッカー選手を買いに行く」とベルサニはベルルスコーニのサッカー戦略を皮肉った。