最新記事

ベネズエラ

反米カリスマ、チャベスが残した負の遺産

強権とポピュリズムを駆使した独裁者が去った後、産油国ベネズエラの将来は不安だらけ

2013年3月19日(火)14時55分
マック・マーゴーリス(中南米担当)

扇動者 キューバのカストロ前議長やアルゼンチンのペロン元大統領と同列に論じられるまでになっていたチャベス Jorge Silva-Reuters

 独裁者にふさわしい別れの光景だった。赤いベレー帽をかぶった数万の市民が、国旗に包まれたひつぎをひと目見ようとひしめき合う。ひつぎの主は、ベネズエラのウゴ・チャベス大統領(58)。赤いベレー帽は、癌のために先週この世を去った彼のトレードマークだ。

 ただの別れではなかった。赤い波にも見える人の群れは、中南米諸国を独立に導いたシモン・ボリバル革命を手本に「21世紀の社会主義」を掲げたチャベスが多くの中南米諸国を魅了した証左でもあった。

 国民は嘆き、中南米の指導者は首都カラカスを訪れて弔意を表した。ブラジルのジルマ・ルセフ大統領はチャベスについて「偉大な指導者、天才、素晴らしい友人」と語った。

 国民の間には、強烈なほど扇動的だった指導者が突然退場したことへの戸惑いが見られる。過激なポピュリズムを駆使し、超大国を愚弄したチャベスは、キューバのフィデル・カストロ前議長やアルゼンチンのフアン・ペロン元大統領と同列に論じられるまでになっていた。

「チャベスは死なない。われわれの心の中に生き続ける」と群衆は叫んだ。だが国が落ち着きを取り戻すにつれて見えてくるのは、不安で不確実な未来だ。

 ベネズエラ憲法によれば、次期大統領選挙は30日以内に行われることになっている。世論調査では、チャベスが生前に後継者に指名したニコラス・マドゥロ副大統領が優位に立っている。

 最もあり得るシナリオは、暫定大統領に就任したマドゥロが追悼ムードに乗り、このまま大統領になるというもの。対抗馬と目されるのは、昨年10月の大統領選でチャベスと戦い、わずか11ポイント差で敗れたエンリケ・カプリレス(ミランダ州知事)だ。

 未来は不確実でも、既に確実なのは政界にカリスマがいないということだ。チャベスのように策略にたけ、言葉巧みに国民に魔法をかける人物がいない。「問題は誰もチャベスではないということだ」と、ディエゴ・アリア元国連大使は言う。

 チャベスがどのようにベネズエラに君臨したかは、次世代の検証を待つことになる。ベネズエラの大手メディア幹部は匿名を条件に、チャベスには市民をとりこにする天性の魅力と、腐敗した構造を利用して身内の懐を肥やす才能があったと語る。

 議会の多数派に反対勢力をつぶさせ、自らに権力を集中させたという指摘もある。チャベスは憲法を無視し、批判派を脅し、友人を判事に指名し、選挙があるたびに選挙区を自分の有利になるよう改定した。だがこれらは、ボリバル革命の推進という理由から大目に見られた。

 チャベスは周辺を不安に陥れて手なずけるのがうまかった。公の場で側近を罵倒し、「ボリガーキー」と呼ばれる自分に近い財界人の1人にはテレビの生放送中にクビを言い渡した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中国防相会談、米の責任で実現せず 台湾政策が要因

ワールド

ロシア新型ミサイル攻撃、「重大な激化」 世界は対応

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中