最新記事

ベネズエラ

反米カリスマ、チャベスが残した負の遺産

2013年3月19日(火)14時55分
マック・マーゴーリス(中南米担当)

「社会革命」も崖っぷち

 くしくもチャベスが独裁政権の基礎を固めつつあった時期に、中南米では民主主義が芽生えていた。新たに民主国家となった国の指導者たちは、チャベスの手法に目をつぶった。

 昨年、パラグアイの上院がフェルナンド・ルゴ大統領を罷免すると、南米南部共同市場(メルコスル)は「民主主義条項への違反」としてパラグアイの参加を一時停止した。その一方でメルコスルは、ベネズエラの参加を満場一致で認めている。

 国民にとってもチャベスの手法は些細な問題でしかなかった。彼らにとってチャベスは、恵まれない家庭で育ち、石油が生み出す金をエリートから奪い返す軍靴を履いたロビン・フッドだ。チャベスがベネズエラ石油公社 (PDVSA)を掌握し、利益の一部を社会支援プログラムに回すと、国民は拍手喝采した。

 スラム街の環境改善や識字率の向上、医療の無償化などを掲げた社会プログラム「ミッション」が失敗したのは当然といえた。カラカスで廃墟となったオフィスビルに不法占拠者がはびこったのも、公営住宅建設計画が頓挫した証拠だった。それでも失敗を成功に見せ掛けることにかけて、チャベスをしのぐ者はいなかった。 
 
 チャベスの魔法は次第に解けていく。「チャビスモ」と呼ばれる金にあかせたポピュリズムと個人崇拝を軸にした政治が14年続いた後、ベネズエラ経済は行き詰まりを迎える。

 ベネズエラの昨年の対外債務は08年から192%増の1080億ドルだ。同じく昨年は公共支出が実質26%拡大した。チャベスが4選を狙う大統領選が10月に控えていたためだ。

 チャベスの時代にはインフレが急速に進み、今年は実に33%に達するとみられる。政府は通貨ボリバルの大胆な切り下げを実施したが、闇市場では1ドル=約23ボリバルと、公定レートの4分の1にまで急落している。

 資本も大変な勢いでベネズエラから逃避している。ゴールドマン・サックスによれば、資本逃避額は08年の610億ドルから今は1560億ドルに急増した。
ベネズエラの問題を生んだのは、運ではなく人だ。世界有数の産油国なのに、経済は浪費と資金難にあえいでいる。チャベスが広範な企業を国有化すると、外国人投資家はベネズエラから資金を引き揚げた。

 スーパーに行っても、牛乳からトイレットペーパーまであらゆる物資が不足している。最近も人々は小麦粉を買うために何時間も列をつくった。

 少なくとも責任の一端は、社会プログラムに巨額のオイルマネーを惜しまず注ぎ込んだチャベスにある。業界の優等生だったPDVSAは今では赤字を抱え、産油量も15年前に比べて50万バレル減った。

 ベネズエラ経済の足かせとなっているものは明らかだ。エコノミストのフランシスコ・ロドリゲスは、今年の経済成長率はマイナス3・5%ほどになると予測している。これが現実になれば、ボリバル革命の象徴的存在である社会革命は存続も危うくなると、彼は言う。これからのベネズエラを支える指導者たちには、「21世紀の社会主義」を約束したチャベスの負の遺産が残る。

 楽観的な見方の中には、マドゥロ暫定大統領や別のチャベス派が政権を握れば、敵対勢力や反政府派と歩み寄って挙国一致の体制を取らざるを得ないというものもある。だが、これは希望的観測かもしれない。

「次期政権はもっと過激になる」と語るのは、投資銀行BCPセキュリティーズのウォルター・モラノ頭取。「キューバや中国、イランなど『旧友』に近づき、自分たちの邪魔をするものは誰であれ排除するだろう」

 こうした予測がベネズエラ国民の耳に届いているかどうかは分からない。「中立系のメディアを排除する動きはさらに強まる」と、前出の大手メディア幹部は言う。「政府はさらにスケープゴートをつくり出し、メディア攻撃を続けるだろう」
赤い波に包まれたカラカスを次に襲うのは、どんな波なのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英住宅ローン承認件数、2月は3カ月ぶり高水準 今後

ワールド

高市首相、赤沢氏を重要物資安定確保担当相に任命 対

ワールド

銀行の内部信用リスクモデル、ECBが変更の承認迅速

ワールド

訪台の米議員団、立法院に防衛特別予算の早期承認を要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 2
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 3
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカートニー」を再評価する傑作映画『マン・オン・ザ・ラン』
  • 4
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    【銘柄】東京電力にNTT、JT...物価高とイラン情勢に…
  • 7
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 8
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    カタール首相、偶然のカメラアングルのせいで「魔法…
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 4
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中