最新記事

中東

イラン通貨大暴落の深刻度

2012年11月8日(木)14時44分
オミド・メマリアン(コラムニスト)

頼みの革命防衛隊も離反

 アリ・ラリジャニ国会議長は先週、問題の80%は政府の政策にあり、20%は制裁にあると発言。「『ロビン・フッド経済』では絶対にうまくいかない」と、アハマディネジャドの経済政策を皮肉った。「ロビン・フッド経済」とは、2期目のアハマディネジャド政権による補助金のばらまき政策を指す。

 政府が国民に直接補助金を配ることに対しては、制御不能のインフレを招くとして多くのエコノミストから反対の声が上がっていた。複数のリポートによると、現在のイランのインフレ率は30%を超えている(公式の数字は19%)。

 アハマディネジャドはラリジャニの批判に対し、制裁が通貨危機の原因ではないとすれば、議会の対応が悪いのではないかと反論。制裁によって石油の輸出が困難になり、中央銀行の取引が制限されていることが問題だと主張した。同時にアハマディネジャドは、確かに石油輸出は減っているが、「神のおぼしめしがあれば、(輸出は)回復するだろう」と述べた。

 同じく先週、アハマディネジャドは論議を呼んだ記者会見で、22人の首謀者がイランの為替市場に大混乱を引き起こしたと非難(氏名は公表しなかった)。情報省に捜査を命じた。

 アナリストによれば、リアルの急落には複数の要因が関係している。「過去7年間、政府はオイルマネーにものをいわせ、リアルの価値を人為的に低く抑えていた。だが金融取引と石油に対する長期の制裁は、政府の歳入をかなり減少させた」と、カリフォルニア大学バークレー校の中東起業・民主主義プログラムの責任者ダリウシュ・ザヘディは言う。

 「国民は深刻化する金融危機、国際関係の危機に対処する政府の能力を信用していない。状況が悪化し続けるのは確実だと思っている」と、ザヘディは指摘する。「政府は制裁のせいで外貨準備を使えなくなったか、外貨準備が急激に枯渇しかけているかのどちらかだと、人々は考えている」

 ザヘディはこう付け加える。「アハマディネジャドの任期中、政府は資金の流動性を600%も高めた。そのため今は資金が雪崩を打って安全な投資先に殺到している。さらに金利がインフレ率を大きく下回り、電気などの公共料金と資源価格の急騰、安価な中国製品の大量流入によって国内の製造業が大打撃を受けているため、資金が外貨や金などの安全な投資先に流れ込み、両者の相場を高騰させている」

 05年、アハマディネジャドが大統領に就任した当初は、最高指導者のアリ・ハメネイ師と革命防衛隊、議会から全面的な支持を得ていた。だが今は、議会も革命防衛隊も大統領に背を向けている。

 アハマディネジャドは先週の記者会見で半国営のファルス通信を非難。同通信は「ある治安機関(革命防衛隊を指す)の支配下にあり」、自分に対して心理戦争を仕掛けていると主張した。

 さらにアハマディネジャドは、辞任の可能性をほのめかして脅しをかけた。「もし私の存在が耐え難いというのなら、一筆書いてもいい。『さよなら』と」

 先月末、アハマディネジャドがニューヨークの国連総会で演説している間に、革命防衛隊は大統領の広報担当顧問モハンマド・アリ・ジャバンフェクルの身柄を拘束した。アハマディネジャドとかつての盟友たちの間で、権力闘争が激化していることを物語るエピソードだ。

[2012年10月17日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ車販売、3月も欧州主要国で振るわず 第1四半

ビジネス

トランプ氏側近、大半の輸入品に20%程度の関税案 

ビジネス

ECB、インフレ予想通りなら4月に利下げを=フィン

ワールド

米、中国・香港高官に制裁 「国境越えた弾圧」に関与
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中