「野戦病院ごっこ」に興じるシリアの子供たち
ある推計によると、シリア内戦の死者は2万3000人。その多くは民間人だ。バシャル・アサド大統領の現政権は反政府勢力が掌握した地区を容赦なく攻撃する。
子供たちは残虐行為の目撃者であり、犠牲者だ。子供の死体の画像が、反アサドの宣伝に利用されることもある。
8月中旬、反政府勢力がジャーナリストへの情報提供に使っているインターネットのあるサービスに、「アサドからアレッポの子供への贈り物」と題したメッセージが投稿された。このメッセージに書かれたリンクを開くと、胸に大きな穴が開いた少年のむごたらしい写真が表示される。
シリア国内では150万人以上が内戦で家を失い、十数万人が国外に脱出した。最も多くの難民が流入するトルコの受け入れ難民数は7万人を超えた。
8月に入って、24時間で2500人以上がトルコに流入した日もある。難民の約半数は子供たちで、その多くが心に深い傷を負っている可能性が高いと、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のトルコ事務所の責任者を務めるキャロル・バチェラーは指摘する。
トルコ政府は精神的なケアにも取り組んでいるが、もっと緊急性が高い食料や医療支援に比べると、後回しにされがちだ。心に傷を持つ子供たちはなかなか話を聞いてもらえない。「大人たちが同じ部屋にいると、話すチャンスがもらえないこともある」と、バチェラーは言う。
「僕のせいで母さんは...」
イドリースもダマスカスで臨床心理士をしていたときは、もっぱら大人の患者が相手だったが、今は少年たちの心の治療に当たっている。彼らは「ご近所さん」という遊びをする。それぞれが自分の「家」を構え、お客としてやって来たイドリースと話をする遊びだ。
時々少年たちは、代わりに「反政府ゲリラごっこ」や「野戦病院ごっこ」がやりたいとせがむ。ゲリラになりきった子供たちは、警官や悪名高いアサド派の民兵組織シャビハを殺す。野戦病院ごっこでは、母親の身に起きた出来事を再現してみせることも良くある。「落ち着いて。すぐに良くなるから。新しい手と新しい腰がもらえるからね」と、少年たちは言う。
あるとき遊びが終わると、ハカムは足を持ち上げ、爆弾の破片でできた傷を見せて言った。「父さんが、2階へ行ってライターとたばこを持ってこいと言ったんだ。僕が2階へ行ったら、ロケット弾が飛んできた。僕は『父さん!』って叫んだ。そしたら母さんが来てくれて、僕を抱えて走りだしたんだ」
父親はハカムを野戦病院に連れていった。幸い傷は小さかった。そのとき、「けがをした女の人が(病院に)来たんだ」と、ハカムは振り返る。「母さんだった。病院の人たちは、母さんに血液を2袋も輸血した」
あの日に何が起きたか、少年たちはよく理解していると、イドリースは言う。「ただ、なぜ起きたかは分からないんです」。ソファに腰を下ろしたハカムが口を開いた。「母さんのけがは僕のせいだ。僕が2階に行ったから。母さんは僕を迎えに来てくれたのに」
おまえのせいじゃない、と誰かが勇気づけるように言った。
「いや、僕のせいだよ」と、ハカムは答えた。「僕と、バシャル(・アサド)のせいだ」
[2012年9月 5日号掲載]