最新記事

イスラエル

対イラン主戦論でネタニヤフが突出

悲惨な戦争を嫌う世論は指導層からの反論もねじ伏せて早期の空爆を主張するが

2012年9月21日(金)15時38分
ダン・エフロン(エルサレム支局長)

筋金入り 強硬過ぎてオバマ米大統領にも会談を蹴られたネタニヤフ Reuters

 イスラエルのペレス大統領が、ネタニヤフ首相に待ったをかけた。同国のテレビ局チャンネル2に出演したペレスは先週、アメリカの承認なしに単独でイランを攻撃すべきではないとコメント。イランへ強硬姿勢を取るネタニヤフを牽制してみせた。

「わが国だけで攻撃を行うのは不可能だ。(イランの核開発を)遅らせる以上のことをするには、アメリカの協力が必要なことは明らかだ」

 これでネタニヤフは対イラン戦略を再考せざるを得ないだろう、との見方がメディアに出る一方で、ネタニヤフ側はすぐさま痛烈に反論。ペレスの発言は越権行為に当たると批判し(イスラエルの大統領は形式的な存在で政治的権限を持たない)、ペレスがこれまでに犯した数々の「安全保障上の失態」を挙げる側近の声が報じられた。

 政府関係者によれば、2人は以前から犬猿の仲だった。イラン問題をめぐる意見の相違は、いわば当然の帰結。ネタニヤフは筋金入りのタカ派で、ペレスは徹底した平和主義者だ。

 ただし今回の対立が浮き彫りにするのは、イスラエル国内のもっと大きな動きだ。ネタニヤフとバラク国防相が対イラン開戦に踏み切ろうとするなか、普段は公的な場で意見を述べることのない人々が、続々と見解を表明するようになっている。

 例えば諜報機関の元トップや現職の軍幹部、長年イスラエルが内密に進めてきた核開発計画に関与する多数の政府高官などだ。中にはイラン空爆を公然と擁護し、核兵器を持つイランと対決するよりは先制攻撃を非難されるほうがましだと主張する者もいる。ただ全体としては、戦争は悲惨な結果をもたらす可能性があるとして、イラン攻撃に反対する意見のほうが多い。

 イラン側は、核開発の目的は平和利用だと述べている。しかしネタニヤフは、イランは既に複数の核兵器を造れるだけのウランを濃縮していると主張。オバマ米大統領に対しても、対イラン制裁を強化し、外交努力を尽くした結果、策がなければ軍事力の行使も辞さないと明言するよう働き掛けてきた。

 この数週間、イスラエルとアメリカはイラン問題をめぐるやりとりを密にし、米政府高官のイスラエル訪問も続いている。イランを攻撃するかどうか結論は出ていないとネタニヤフは語っているが、国内メディアはこの1週間、開戦が近いという論調の記事を書き立ててきた。

 イスラエルで一目置かれている2人のジャーナリスト、ナフム・バルネアとシモン・シファーは、ネタニヤフとバラクは11月の米大統領選の前に開戦するという決断に至ったと報じた。しかし軍関係者の強い反対を考えれば、ネタニヤフが閣僚の過半数の支持を集められるかどうかは疑問だとも論じている。イスラエルでは軍は国民の信望を集める存在で、軍関係者の意見も重視される。

 ここ1カ月で行われた世論調査によると、イラン攻撃に関して国民の意見はほぼ真っ二つ。ペレスの発言が示唆するように、指導層の分断も明らかになった。ネタニヤフはどこまで強硬姿勢を貫くことができるだろうか。

[2012年8月29日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-中国、欧州EV関税支持国への投

ビジネス

中国10月製造業PMI、6カ月ぶりに50上回る 刺

ビジネス

再送-中国BYD、第3四半期は増収増益 売上高はテ

ビジネス

商船三井、通期の純利益予想を上方修正 営業益は小幅
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 2
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 5
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 6
    米供与戦車が「ロシア領内」で躍動...森に潜む敵に容…
  • 7
    娘は薬半錠で中毒死、パートナーは拳銃自殺──「フェ…
  • 8
    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…
  • 9
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」…
  • 10
    衆院選敗北、石破政権の「弱体化」が日本経済にとっ…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 6
    渡り鳥の渡り、実は無駄...? 長年の定説覆す新研究
  • 7
    北朝鮮を頼って韓国を怒らせたプーチンの大誤算
  • 8
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 9
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 8
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 9
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中