最新記事

中東

シリア反体制派の危険な変化

2012年8月22日(水)15時52分
トレーシー・シェルトン(ジャーナリスト)

 革命の方向性を心配する声はディオジェンのような学生活動家だけでなく、自由シリア軍の内部にもある。自分を「穏健派イスラム教徒」と呼ぶナダル・アジニは、外国からの支援が自由シリア軍内部の過激で暴力的な勢力に直接流れていることを懸念している。宗教過激派は数の上では少数派だが、圧倒的多数の軍資金や武器を受け取り、穏健派に仲間に加わるよう圧力をかけているという。

「こちらに武器がないのを知っていて、ある宗教系武装グループのリーダーがAK47自動小銃と弾倉、資金を提供するから仲間になれと言ってきた」と、アジニは打ち明ける。「だが断った。私は自由と民主主義のために戦っているからだ。今は多くの人間がこの手の脅しを受けている」

 やはり穏健派を自任する大学教授の活動家アブドゥル・アジーズ・アジニは、故郷のイドリブ県クリーン村でイスラム国家の樹立を主張する過激派は15人程度で、圧倒的多数を占める150人以上の戦闘員は民主主義のために戦う穏健派だと指摘する。彼も、外国からの援助の大半が少数の過激派に流れていると主張する。

「現状はシリアだけでなく、中東全体にとっても危険だ。シリアは多くの文化が混在する国。宗派の違いにこだわると、(本物の)内戦になってしまう」


国際社会の無策も一因

 アジーズ・アジニによれば、宗教過激派は湾岸諸国と欧米の両方から資金援助を受けている。外国は資金を公平に分配するか、さもなければ援助を止めるべきだと、彼は言う。「欧米は世界中でアルカイダと戦っているのに、シリアでは逆に連中を支援している」

 社会主義政党の党首を務めるサフワンも、自由シリア軍内部で宗教過激派が増えているという見方に同意する。本人は大きな脅威とは受け止めていないと言うが、政府側と反政府側双方の反発を懸念してフルネームは明かさないでほしいと記者に要請した。

「シリアは過激派と無縁の社会だが、状況の変化が彼らを生み出した。民主主義が勝利を収めなければ、過激派はどんどん増えるだろう」と、サフワンは北部の都市アリハで開かれた党員の会合で語った。「暴力が勝利を収めれば、人々は過激派に救いを求める。しかし彼らの力はまだ弱い。今なら抑え込むことができる」

 革命の初期段階では、問題は宗教ではなく政治だったと、サフワンは言う。人々は言論と結社の自由、反対政党をつくる権利を要求し、初期のデモ隊は1963年から続く厳格な非常事態法の廃止を訴えていた。

「革命の方向性を変えたのは政府の暴力的な対応だ。今はイスラム過激派が外国勢力と連携する危険な段階に突入しつつある」

 この問題の解決策は平和的な革命運動に戻ることだが、それには国際社会の支援と現体制への圧力が必要だと、サフワンは言う。「大国の決定を待ち続けるのが最もつらい。人々が毎日命を落としているのに世界は何も言わない」

 先週、自由シリア軍の会合がクリーンで開かれた。空爆で破壊された学校に集まった自由シリア軍のメンバーは40人ほど。そのうちの1人が中部ホムスの司令官から送られてきた書簡を読み上げた。

 この書簡はイスラムの価値観を強調する内容で、全員にイスラム文化と規範を学ぶよう求めていたが、戦いの究極の目標については明快にこう述べていた。

「思想や信条、宗教にかかわらず、(自由シリア軍は)全員平等だ。われわれは1つの目標、つまり現体制打倒のために戦っている」

From GlobalPost.com

[2012年7月25日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノボ、次世代肥満症薬候補の結果に「かなり勇気づけら

ビジネス

日産社長、ホンダ社長に統合協議の白紙化を伝達 子会

ビジネス

FRBが今年のストレステスト概要公表、新たなシナリ

ビジネス

米財務長官が日銀総裁とオンライン会談 「緊密な協力
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギー不足を補う「ある食品」で賢い選択を
  • 3
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 4
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    「僕は飛行機を遅らせた...」離陸直前に翼の部品が外…
  • 7
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 8
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 9
    戦場に響き渡る叫び声...「尋問映像」で話題の北朝鮮…
  • 10
    スーパーモデルのジゼル・ブンチェン「マタニティヌ…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 5
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 6
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 7
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 8
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 9
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 9
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中