最新記事

エリート教育

中国共産党の俊英はハーバードで育つ

2012年7月6日(金)14時17分
ウィリアム・ドブソン(スレート誌政治・外交担当)

民主化を後押しできるか

 最も高い地位に上り詰めたのは李源潮(リー・ユアンチャオ)だ。ハーバード研修経験者で初めての中国共産党中央政治局員で、現在は共産党中央組織部長も務めている。さらに秋には、中央政治局常務委員に昇進する見通しだ。そうなれば、中国の最高指導部9人に名を連ねることになる。

 ハーバードが中国の次世代リーダーに統治の仕方を教えることを問題視する人もいる。確かに、人権蹂躙を大規模かつ組織的に行っている国の専制統治体制を存続させるために、ハーバードが手を貸していることは否定できない。

 しかし、アメリカ東海岸のキャンパスで学ぶ経験を通じて、中国のエリート官僚たちが専制支配以外の統治方法を知るのであれば、彼らを締め出すより意義がある。「これらのプログラムを通じて、世界の国々の統治の在り方を改善したい」と、ケネディ政治学大学院アッシュセンターのジュリアン・チャン所長は言う。

 それに、欧米の有力大学にエリートを派遣していることからも分かるように、中国は世界の専制国家の中では、他国の統治手法の借用や応用に最も前向きな国だ。

 近年も選挙や公聴会、世論調査、インターネットを利用した市議会審議の生中継など、民主国家の手法を取り入れて、統治方法の改善を試みてきた。

 例えばムアマル・カダフィが権力を握っていた時代のリビアや、ロバート・ムガベ大統領のジンバブエが欧米の一流大学に幹部候補生の官僚を留学させることなど想像できるだろうか。

 もちろん、中国が統治の質を改善しようとするのは、あくまでも共産党の支配を継続することが目的だ。それでも、まったく統治が改善されないよりはよほどましだろう。

 私は昨年春、共産党員で政府の要職も務める北京大学の政治学者、兪可平(ユィ・コーピン)と会った。兪はハーバード留学経験者で、中国でもっと民主主義の実験を行うべきだと積極的に主張している。

 当時は、中東・北アフリカ諸国に民衆革命が広がり、長期独裁体制が相次いで倒れた「アラブの春」の直後だった。兪は私にこう言った。「中東諸国の混乱から私たちが学ぶべき教訓は、公共サービスを改善すること、そして透明性と説明責任、社会正義を重んじることを通じて人々の政治参加を拡大することの必要性だ」

 兪がこの考え方をハーバードで学んだのかどうかは分からない。しかし、もしそうだとすれば希望の持てる話だ。

© 2012, Slate

[2012年6月13日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中国防相会談、米の責任で実現せず 台湾政策が要因

ワールド

ロシア新型ミサイル攻撃、「重大な激化」 世界は対応

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中