最新記事

アルカイダ

ビンラディンの大いなる誤算

2012年6月6日(水)13時06分
ウィリアム・サレタン(ジャーナリスト)

唱える理念自体に欠陥が

 アボタバード文書から分かるのは、ビンラディンが自分の解き放ったものを理解していなかったことだ。晩年になってようやく彼は、テロリズムがイスラムと、正義と、アルカイダに何をもたらすかを理解し始めた。ビンラディンが始めた運動は、自らをむしばんでいたのだ。

 それはテロリズムの不可避的な末路だ。信仰に関係なくほとんどの人は、子供や丸腰の人間を殺すのは重大な過ちだと思う。派閥抗争や戦争は嫌だし、抑圧的な政府の下で暮らしたいとは思わない。市場を爆破し、取るに足らない罪を犯した人の手を切り落とすグループを嫌う。

 ビンラディンはこうした過ちを支持者のせいにした。自分が唱える理念を彼らが誤って解釈したのだと考えた。自分が唱えた理念自体に欠陥があるとは、決して思い至らなかった。

 だが、ひとたびテロリズムを推し進め、聖典を都合よく解釈して正当化すれば、邪魔な人間を手当たり次第に殺すのを正当化するのは簡単だ。異教徒に対する戦争を宣言して、異教徒の定義を非イスラム教徒からシーア派に拡大するのもたやすい。

 ビンラディンはこの狂気に深くはまり込み、はい出ることができなかった。だが彼が残した文書は、アルカイダとビンラディンの支持者全員に対する警告になる。神の名の下に民間人を殺せば、神と自分の価値観、そして人民を裏切ることになる。自分を破滅させることになる。

 後戻りするなら、今だ。

© 2012,Slate

[2012年5月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中